【感想】「The 備前 ―土と炎から生まれる造形美―」(兵庫陶芸美術館、2020/3/7~7/26)レビュー

兵庫陶芸美術館で開催されている「The 備前 ―土と炎から生まれる造形美―」(会期:2020年3月7日~7月26日)に行ってきました。この展覧会は、2019年から始まった巡回展で、これまで、東京国立近代美術館工芸館、益子陶芸美術館、山口県立萩美術館・浦上記念館、MIHO MUSEUMを巡回しており、兵庫陶芸美術館の後は、岡山県立美術館、愛知県陶芸美術館での開催を予定しています。

 

今回、初めて兵庫陶芸美術館に足を運びました。虚空蔵山の麓に佇む美術館で、広大な敷地のなかにエントランス棟や展示棟、研修棟、管理棟などが贅沢に立っています。エントランス棟の2階には、ダイニングカフェ「虚空蔵」と共に広い展望デッキがあり、ここから窯元群が立ち並ぶ丹波焼の里を一望することができますので、お越しの際には是非ご覧下さい。

 

さて、展覧会の構成は以下のとおりです。

Ⅰ章 源流としての備前焼-茶の湯のうつわを中心に-
Ⅱ章 近代の陶芸家と備前焼-写しと創作-
Ⅲ章 現代の備前焼-表現と可能性-

 

そもそも備前焼というのは、岡山市備前市伊部を中心として平安時代の末期から始まった焼き締め陶芸で、「The 備前」展では、桃山時代の茶陶の名品から始まり、その影響を受けた近代の陶芸家の優品、そして現代活躍している陶芸家の最新作まで、備前焼の歴史の流れを踏まえながら堪能できる内容になっています。

 

Ⅰ章では、室町時代から桃山時代、江戸時代にかけての古備前が展示されています。これぞ備前焼という感じの重厚な魅力が詰まった作品が楽しめました。展示室の外にかけられた大きなパネルに、「胡麻」「混淆土」「火襷」「牡丹餅」等、備前焼の用語解説があり、これが作品を理解する上で非常に役立ちました。(図録の末尾にも掲載されています)

 

Ⅱ章では、金重陶陽(かねしげ とうよう)、藤原啓(ふじわら けい)、山本陶秀(やまもと とうしゅう)、金重素山(かねしげ そざん)、藤原雄( ふじわら ゆう)、伊勢﨑満(いせざき みつる)といった、人間国宝4名を含む近代陶芸家の作品が展示されていました。

 

桃山時代とは異なる焼成方法が確立され、備前焼で初めて重要無形文化財保持者となった金重陶陽の作品をきっかけに、備前焼が注目され、その人気に火が付いた理由がよく分かる気がします。

 

さらに、Ⅲ章では、伊勢﨑淳(いせざき じゅん)、森陶岳(もり とうがく)、島村光(しまむら ひかる)、金重晃介(かねしげ こうすけ)、隠﨑隆一(かくれざき りゅういち)、金重有邦(かねしげ ゆうほう)、伊勢﨑創(いせざき そう)、矢部俊一(やべ しゅんいち)、伊勢﨑晃一朗(いせざき こういちろう)という現代陶芸家の作品が一堂に会していました。

 

ここでは、備前焼の最新作品が展示されており、従来の備前焼の魅力を生かしつつ、新たな試みが付加されていく様子がありありと伝わってきます。伊勢崎淳氏の《風雪》や《角花生》など、備前焼の美しさに現在的な造形が加味され見事な芸術作品になっています。

 

備前焼細工物に挑戦する島村光氏や、これも備前焼なのかと思わせられる金重晃介氏の《備前花器 海から》、《聖衣》、《誕生(王妃)》等の作品、混淆土を使った作陶に挑戦している隠﨑隆一氏など、各人各様の創意工夫の跡が窺えました。個人的には、矢部俊一氏の現代彫刻と備前焼を融合させた、洗練された造形と備前焼の土感が心地よい作品群に心惹かれました。

 

さらに、Ⅲ章では、約28分のビデオも上映されており、森陶岳氏、島村光氏、隠﨑隆一氏たちの展示作品にまつわるエピソードなどがインタビューを交えて紹介されていました。備前焼を担う現代陶芸家たちの誇りと意地を見た気がしました。

 

受付では「The 備前」の公式図録も販売されており、価格は2,400円でした。作品の息づかいまで伝わってくるような良い仕上がりなっていて、繰り返し見たくなる図録です。

2020年07月20日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー