【感想】「異才 辻晉堂の陶彫」(美術館「えき」KYOTO、2020/10/31~11/23)レビュー

美術館「えき」KYOTOで開催されている「生誕110年記念 異才 辻晉堂の陶彫」(会期:2020年10月31日~11月23日)に行ってきました。この展覧会は、抽象的な陶彫作品で知られる彫刻家 辻晉堂(1910-1981)の生誕110年を記念して開催された展覧会です。

美術館「えき」KYOTO「生誕110年記念 異才 辻晉堂の陶彫」

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

 

序 疎開先の鳥取県・二部から京都へ
1 陶彫の試み
2 第29回ヴェネツィア・ビエンナーレに出品された大型の陶彫
3 扁平な陶彫の出現
4 登り窯から電気釜へ
5 版画・素描など

 

序では、彫刻家の平櫛田中との関係が窺える書簡などが展示されていました。さらに、第1章では、1956年に制作された陶彫作品が展示されていました。《禁煙(禁煙の名人)》という作品は、禁煙・禁酒・絶交の名人と呼ばれた自刻像で、パーツが互いに交差する面白い作品です。また、キュビスムの影響が見られる《顔(寒拾)》という作品もありました。

 

第2章では、第29回ヴェネツィア・ビエンナーレに出品された大型の陶彫が展示されていました。展覧会のチラシの表紙を飾っている《沈黙》という作品や《寒山》、《拾得》といった作品は、心地よい抽象性を持っていて印象的でした。

 

第3章では、社会問題を風刺した《詰込教育を受けた子供》という作品がありました。この作品は、他の作品と異なり厘鉢や硝子を利用したミクストメディアになっています。他にも、《目と鼻の先の距離について》という面白い作品もありました。正面から見ると目と鼻の距離は近く見えますが、横から見ると随分離れているという作品です。

 

第4章では、イサム・ノグチから、辻晉堂の作品がタオスのプエブロにある住居に似ていると指摘され、そこを訪れたエピソードが紹介されていました。ここでは、「登り窯」が禁止され「電気窯」に変更した後の作品が展示されていました。抽象的な陶彫だけでなく、人物を表現した作品も多数展示されていました。

 

《緑陰讀書》という作品では、横たわって読書を楽しんでいる人の姿が、独特の楽しい雰囲気で表現されていました。陶彫というより粘土細工だと本人が表現しているように、晩年には余分な力の抜けた素朴な魅力を持つ作品が増えているように思えました。

 

第5章では、辻晉堂の版画や素描がまとめて展示されていました。《長い長い行列》という作品では、1964年に開催された「ミロのヴィーナス展」を観ようと行列をなしている人々が小さな蟻の行列のように描かれていました。展覧会場から出てきた人々がみな手にカタログを持っている様子が面白いですね。

 

陶彫で抽象的な作品を創作した辻晉堂ですが、中国の「寒山拾得」をテーマにした作品や道元禅師の「雲自水由」をテーマにした作品など、教養に裏打ちされた作品も創りながら、衒うことなく無心を心がけている様子が窺える作品が堪能できました。

2020年11月17日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー