【感想】「美人のすべてリターンズ」(福田美術館、会期:2021/4/24~7/4)レビュー

福田美術館で開催されている「美人のすべてリターンズ」(会期:2021年4月24日~7月4日)に行ってきました。この展覧会は、2020年に開催され、コロナのために会期短縮となってしまった「美人のすべて ~初公開、松園の『雪女』」を踏まえての開催でしたが、今回もまた会期短縮の憂き目に遭ってしまいました。今回は、そんな前期展のレビューとなります。

福田美術館美人のすべてリターンズ

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

第1章 美人画の競演 ~松園を中心に
第2章 多様化する美人たち ~美人画の変遷
第3章 夢二が描く美人

 

第1章の主役は上村松園となりますが、彼女の作品を観ていますと、女性の美しさについてつくづく考えさせられます。上村松園は理想的な女性の美を追究し、その姿を描き続けました。作品を通して、容姿や装いだけでなく、ちょっとした仕草や立ち居振る舞い、心の動きがいかに美しさに関わっているかがよくわかります。

 

山川秀峰の《振袖物語》では、叶わぬ恋のため命を落とした女性の儚い姿や、それと対置される、女性を虜にして死に追いやった罪深い男性の装いを赤で表現していました。この作品は、この後、修復作業のためしばらく観られなくなるようです。

 

第1章の注目作品の一つは、第1回文展で3等賞を獲得したものの長年行方不明になっていた、池田蕉園(1886-1917)の《もの詣で》でしょう。上村松園にあやかって命名された蕉園ですが、この作品は彼女が20歳の時に描いたものだと言います。

 

そして、上村松園の《雪女》も注目作品です。この作品は、近松門左衛門の戯曲「雪女五枚羽子板」を元に描かれた作品です。幕府に仕える侍女が、悪人にだまされ将軍家の太刀を盗み出し、雪の中で命を落としてしまいます。その後、この女性は恋人の危機に際して雪女となって現れ、恋人に太刀を渡して助けようとします。この作品ではその場面を描いています。何とも不気味な表現ながら、雪女の一途で強い愛情を表現しているようです。

 

第2章では、17世紀の美人画から始まり、18世紀、19世紀、鏑木清方や伊東深水、伊藤小坡、中村貞以など20世紀の美人画が展示されています。時代と共に、美人画の内容もどんどん変わってきています。20世紀に入り、何気ない日常生活や働く姿、内面の姿の美を描こうとする様子も窺えました。

 

第3章では、竹久夢二の作品が展示されていました。前期展では、異国情緒が溢れる《長崎十二景》が展示されていました。この中に《阿片窟》という作品がありましたが、なかなか衝撃的です。裸の少女たちが楽しげに寛いでいる様子を描かれています。阿片窟というのは、文字通り、アヘンの販売や喫煙がなされた施設のことで、当時の夢二も見聞していたのでしょうか。

 

今回は、緊急事態宣言下での開催でしたので、嵐山の桂川周辺の人通りはいつにも増して少なく、ひっそりとしていました。しかし、美術館内は美術好きの熱心な方々が楽しげに鑑賞していました。こうした時だからこそ、芸術の力でコロナを撃退したいですね。

 

<2021/6/23追記>

 

後日、【後期】展にも行ってきました。かなりの作品が展示替えとなり、通期展示の名作だけでなく新たな作品も存分に観ることができました。特に上村松園の作品に関しては、前期と後期を合わせると福田美術館が所蔵する全24作品が鑑賞できるという貴重な機会となりました。

 

改めて、上村松園の凄さを再確認する機会となりました。小さな女の子の姿には、松園の暖かい眼差しが感じられます。一方、伊藤小坡の《花見之図》では、何とも華やかで、扇で桜の花びらを受け止めようとする女性の様子が可憐に描かれており、印象に残りました。

 

竹久夢二に関しては、後期展で《女十題》が展示されており、夢二が描く、どこか儚なげで守りたくなるような女性の魅力が溢れていました。離れ目美人の原点を観たようにも感じました。

 

さて、次の展覧会では、福田美術館が所蔵する若冲作品が全て鑑賞できるようで、楽しみです。

2021年06月04日|ブログのカテゴリー:2021年投稿, 展覧会レビュー