【感想】「日比野克彦展『明後日のアート』」(姫路市立美術館、会期:2021/9/18~11/7)レビュー

展覧会の概要

姫路市立美術館で開催されている「日比野克彦展『明後日のアート』」(会期:2021年9月18日~11月7日)に行ってきました。この展覧会では、現在進行形の6つのプロジェクト(明後日朝顔プロジェクト、明後日新聞社文化事業部、種は船、HIBINO CUP、HIBINO HOSPITAL、こよみのよぶね)とともに、これらの「種」となった、日比野克彦氏の1980年代、1990年代の作品が紹介されています。

 

展覧会の構成

セクション1 1980年代-スタイル確立と拡張の時代
セクション2 1990年代-目に見えないものの可視化
セクション3 2000年代-明後日のアート

 

感想①「1980年代」

段ボールを利用して制作された、1980年代当時を象徴するような作品が展示されていました。あたかも時代の記念写真のような作品と言えるでしょう。この時代の作品は、ある意味で写実的で、ノスタルジーを感じる分かりやすい作品になっています。

 

一方で、当然ながらこうした作品が発表された当時は、まさに現代進行形の時代ですので、段ボールを用いてこうした斬新な作品を制作した日比野克彦さんのセンスに、世間が感服しただろうということは想像に難くありません。

 

感想②「1990年代」

1990年代に入りますと、抽象的な段ボール作品が増えてきます。自らの腰痛を治療する過程で、同じ内容の夢を繰り返し見た原因を心の内に求め、それを形に表した作品も手がけておられます。こうして制作された作品は、自ずと抽象性が増しています。

 

また、環境問題に着目した作品なども登場しています。例えば、屋久島で拾ってきたゴミと東京の電話帳を組み合わせた作品なども展示されていました。非常にシニカルな作品ですね。

 

日比野さんは、「美というのは、ズレ・スキマをとらえること」と主張されています。同じ体験をしても他人と自分ではその解釈にズレが生じますが、この個性的なズレこそが美の基本だというわけです。こうした自他のコミュニケーション、作品と作家・鑑賞者とのコミュニケーションの多様性に焦点を当てた作品を手がけてこられたようです。

 

感想③「2000年代」

こうしたコミュニケーションの多様性に関するテーマの延長線上に、「明後日のアート」という考え方が生まれたようです。人と人、地域と地域の関係性から生まれてくるものを芸術の根本と考えておられるようです。

 

なかなか難しい考え方のように感じますが、実際に現代進行形で進んでいるプロジェクトから、その意味するところがおぼろげに見えてきます。例えば、明後日朝顔プログラムでは、ある地域で朝顔を育てその種が作ります。そしてその種を他の地域に持っていって、そこで再び朝顔を育てその種を作ります。これを次々と繰り返すことで人々を繋ぎ、その過程に美を見いだしていくということでしょうか。

 

展覧会では、各地で育てた朝顔の種の絵が壁面いっぱいに展示されていました。この種の作品が延々と続いていく様子にコミュニケーションを介した美を感じ取ることになります。私の目には、芸術活動を超えて、人間関係が希薄になった時代に人間関係と人間性を取り戻すための運動をされているようにも感じました。

 

感想メモ

この展覧会は、写真撮影が可能でした。後半になりますと、その意味するところが分かりにくくなりますので、鑑賞前に動画などで「明後日のアート」の考え方を知っておいたほうがより楽しめると思います。

 

また、展示室の入場口付近も作品そのものになっていますので、お見逃しなく。入場時には、まったく気づかなかったのですが、帰り際になって初めて、こんな風になっていたのかと気づきました。

 

展覧会情報

日比野克彦展「明後日のアート」

会場:姫路市立美術館
会期:2021年9月18日(土)~11月7日(日)
休館日:月曜日(9月20日は開館)、9月21日(火曜日)
観覧料:1,000円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:可能
図録:なし
Web:姫路市立美術館「日比野克彦展『明後日のアート』」
2021年10月29日|ブログのカテゴリー:2021年投稿, 展覧会レビュー