【感想】「抽象世界」(国立国際美術館、2019/5/25~8/4)レビュー

大阪にある国立国際美術館で、2019年5月25日から8月4日にかけて開催されている「抽象世界 Abstraction:Aspects of Contemporary Art」に行ってきました。展示作品は、1980年から今日までの約40年間に渡るヨーロッパとアメリカの抽象芸術が対象になっています。現代美術の鑑賞では音声ガイドが力を発揮してくれますが、今回も用意されており、500円で利用できました。

国立国際美術館「抽象世界 Abstraction:Aspects of Contemporary Art」

 

展覧会の構成は、現代美術らしく特に設定されているわけではなく、ピックアップされた作家ごとに作品が展示されていました。出品作家は以下のとおりです。

 

エルズワース・ケリー(1923-2015)
ラウル・デ・カイザー(1930-2012)
ダーン・ファン・ゴールデン(1936-2017)
フランツ・ヴェスト(1947-2012)
ジョン・アムレーダー(1948-)
ギュンター・フォルグ(1952-2013)
ミハエル・クレバー(1954-)
クリストファー・ウール(1955-)
ハイモ・ツォーベルニク(1958-)
ウーゴ・ロンディノーネ(1964-)
トマ・アブツ(1967-)
スターリング・ルビー(1972-)
リチャード・オードリッチ(1975-)

 

エルズワース・ケリーは、目に見える世界を抽象化する作品が特徴ですが、今回は、白地の背景に黒い斜めの図形が配置された、スッキリとしながらも印象深い「斜めの黒いレリーフ」が1点だけ展示されていました。

 

ラウル・デ・カイザーは、元スポーツ記者だったそうで、身近のものを抽象化することを得意としています。展示されている6点の作品は、いずれも何を描いているのか不明です。ただ、「霧笛」「双子」「お化け」といったタイトル名が付いた作品に関しては、ある程度、想像を膨らませることはできました。

 

ダーン・ファン・ゴールデンは、家族と世界中を旅行しながら作品を制作した作家で、日本での滞在からも大きな影響を受けたと言います。「無題(東京)」という作品では、額縁の中に小さな花柄が規則正しく並ぶ図柄を配し、さらにその周りの壁全体も同じ模様を背景にしています。いわば壁全体がひとつの作品になっています。

 

フランツ・ヴェストは、展覧会のチラシ表面を飾っている配色の美しい立体作品を手掛けていますが、「無題」の作品はもとより「乳首」「卵」と名付けられた作品の意味するところはよくわかりません。すべてが鑑賞者の反応に委ねられているようです。作品を神聖化しようとする従来の芸術観を壊そうとしたと言われています。

 

ジョン・アムレーダーは、配色の美しい作品が展示されていました。「大さじ」や「挑戦者」のような配色の抽象絵画はこれまでもありましたが、絵具にキラキラと煌めく素材が塗り込めらており、実に美しい輝きが印象的でした。これは、図録などの写真では伝わらない魅力だろうと思います。

 

ギュンター・フォルグは、作品の構造や過去の美術の検証に興味を持っていたと言われますが、今回の展示作品からはその意味するところはよくわかりませんでした。

 

ミハエル・クレバーは、グリーンを基調とした6作品一組の作品が展示されていました。この方は、絵画において可能なことは既になされているので何も創造しないという立場から作品を手掛けていると言います。

 

クリストファー・ウールは、画面全体を覆うオールオーバー絵画を展開させてきたと言われており、平面的で装飾的な作風が特徴的でした。どちらかというと絵画というより、クールで抽象的な記号ポスターという印象です。

 

ハイモ・ツォーベルニクは、何が展示物を「芸術」として成立させているかを明らかにしようとしていると言われています。今回の展示作品もそのあたりを意識しているのかどうか分かりませんが、そうした境界を提示しているのでしょうか?

 

ウーゴ・ロンディノーネは、大きなレンガの壁を模した作品が展示されており、その意味するところは分かりません。作品名の「二千十四六月二十二」は、この作品の製作開始日だそうです。

 

トマ・アブツの作品は、幾何学的な模様が特徴的で、どこかくすんだ色使いが気になります。不思議な感覚をもたらす作品になっていました。

 

スターリング・ルビーの「SP101」は、市街地の落書きにヒントを得た、スプレー塗料を利用した巨大な作品になっています。焦点の定まらない作風で、暗い色使いながらどこか幻想的ですらあります。一方、立体作品の「ACTS/SPLITTTTTTING」は、一転してこれぞ現代アートと呼びたくなる作品になっています。

 

リチャード・オードリッチは、制作方法の多様性が特徴で、要するに自由自在に作品を制作しています。ただ、今回の展示作品の魅力がどこにあるのかは不明です。「女神」という小さな作品では、何か意味がありそうなのですがそれが何を意味しているのかはよくわかりませんでした。

 

全体的に、抽象世界を表現した現代アートらしく、その価値を判断するのが難しい作品が多かった印象ですが、こうした作品の中から、数百年の年月を経て残る作品もあるのでしょう。鑑賞者も心を柔軟にして作品と対面していく必要がありそうです。

 

2019年07月31日