【感想】「106歳を生きる 篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」(香雪美術館、2019/8/1~10/14)レビュー

香雪美術館で開催されている「106歳を生きる 篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」(会期:2019年8月1日~10月14日)に行ってきました。篠田桃紅さんは、現在106歳を迎えられた美術家で、水墨抽象画という珍しい芸術分野を開拓され確立された方です。

香雪美術館「106歳を生きる 篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」香雪美術館「106歳を生きる 篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」

 

今回の展覧会は、そんな篠田桃紅さんの初期作品から、最近の作品まで幅広く紹介されています。第1章は、2017年に書かれた書「とどめ得ぬもの」から始まり、中原中也や萩原朔太郎の詩といった日本の古典文学に関係する作品や渡米前の初期の作品を中心に展示されています。薄い墨で書かれた《即興》(1953)という作品では、生き生きとした躍動感あふれる書体が印象に残りました。

 

第2章では、濃紺色に染められた和紙に銀泥で描かれた《水》(1950-54)という作品の表現が斬新で見事でした。2階の展示室へと上がると《時間》(1958)という作品がありましたが、水墨画だからこそ説得力を持って「時間」を表現した作品になっています。というのも、水墨画は油彩のような書き直しが一切できない芸術でもあるからです。

 

第3章では、展覧会チラシにも採用されている《月読み》(1978)という作品が展示されており、非常に美しく洗練された抽象画へと昇華している様子が伺えます。第4章では、《桃紅李白》(2004)と題した屏風作品など、90歳を越えてから制作された数々の作品が展示されていました。《豊》(2010)、《心》(2010)といった屏風作品では、シンプルな構図の中に篠田桃紅さんの円熟した境地が表現されています。

 

また、《想》(2010)、《語》(2010)、《遊》(2010)といった連作では、同じような構図でありながら、背景色や影、そして中央に真っ直ぐに引かれた線の微妙な違いで、あたかも悟りの境地を表現しているようにも感じられました。他にも、「越くら山」百人一首カルタや万葉百首、書籍の題字、扇に書かれた書などもショーケースで展示されています。

 

一人の女性書家が日本ではなかなか認められず、渡米を機に海外で人気を博すようになり、再び日本でその力量を発揮することになった人生が、作品の変遷を通して垣間見れる展覧会になっていました。作品前に掲示されていた篠田桃紅さんの言葉には、思わずハッとさせられることもしばしばで、こうした高い精神性が展覧会の質を高めていました。

2019年08月21日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー