【感想】「集めた!日本の前衛―山村徳太郎の眼 山村コレクション展」(兵庫県立美術館、2019/8/3~9/29)レビュー

兵庫県立美術館で開催されている「ICOM京都大会開催記念 集めた!日本の前衛―山村徳太郎の眼 山村コレクション展」(会期:2019年8月3日~9月29日)に行ってきました。

兵庫県立美術館「集めた!日本の前衛―山村徳太郎の眼 山村コレクション展」兵庫県立美術館「集めた!日本の前衛―山村徳太郎の眼 山村コレクション展」

 

展覧会の主役でもある山村コレクションというのは、兵庫県西宮市生まれの企業家・山村徳太郎(1926-1986)が収集した日本の戦後美術作品コレクションのことで、没後、兵庫県立美術館に一括収蔵され、当館の中核を占める所蔵作品群になります。山村徳太郎の収集方針は「アブストラクトと人間くさい前衛のはざ間」というものでした。

 

山村は、当時まだ評価の定まっていない作品を収集していたわけですが、その中には戦後美術史でも重要な位置づけにある作品が多数含まれていました。今回の展覧会では、この山村コレクションの中から138点が展示されています。

 

通常、兵庫県立美術館で開催される特別展は企画展示室1~3を利用して展示されていますが、今回はギャラリー棟のスペースも使って大々的に開催されています。作品数だけを見ればそれほどではありませんが、とにかく巨大な作品が含まれているので、どうしても展示スペースが広くなってしまうんですね。逆に言えば、そうした巨大な作品は、そうそう頻繁には観れないと思うので、今回の展覧会は貴重な機会になりそうです。

 

展覧会の構成は以下の通りです。

Ⅰ 社長業の傍らで―さまざまな出会い 1950~1970年代
Ⅱ 転機 1970年代末~1980年代初頭
Ⅲ 更新は続く―中断の間際まで 1983~1985年

 

山村徳太郎が現代美術コレクションを始めるきっかけとなったのが三名の作家との出会いでした。それは、津高和一(つたか わいち)、吉原治良(よしはら じろう)、斎藤義重(さいとう よししげ)の三名です。その中で最初に出会ったのが津高和一で、展覧会でも津高和一の《母子像》からスタートしています。この作品は色使いも絶妙で、どこか懐かしい感情を思い起こさせてくれます。

 

津高和一の作品は他にも8点展示されていましたが、何れも独特な抽象絵画ですが不思議な魅力を感じます。吉原治良の《作品(夜の鳥)》は、吉原が具体美術協会を結成する前の作品ですが、既にこの段階で収集が始まっていました。後年の円を描いた作風とは随分異なり興味深いですね。1950年から1970年代の収集作品のなかでは、他に元永定正の作品が特に魅力的でした。

 

1970年代後半から1980年代に収集した作品の中には、絵画だけでなく彫刻作品や立体作品も多数含まれています。植木茂《トルソ》や久野真《鋼鉄による作品#224》、荒木高子《砂の聖書》など、斬新な作品が展覧会場に並んでいます。そして、山崎つる子《赤》(270×360×360cm)や杉山知子《THE START - a man and mamorimgami》(500×900cm)といった、かなり大きな作品も展示されています。

 

一方で、山村は1983年にパリとトリノへ飛び、日本からヨーロパに流出した具体美術の買い戻しを決行しています。同時に、山村コレクションの体系化も目指すようになります。山村が、ライバルは東京都美術館だと語っていたように、体系的なコレクションへのこだわりも相当強かったようです。

 

こうして、吉原治良、白髪一雄、田中敦子、嶋本昭三、村上三郎といった具体美術の作品や磯部行久、堂本尚郎の作品が山村コレクションに加わります。その結果、2019年の段階で兵庫県立美術館には68作家167点の山村コレクションが所蔵されることになりました。

 

今回の展覧会は、山村徳太郎が自分の眼で作品を確かめ、作家と対話しながら集めた山村コレクションの収集ストーリーであり、山村徳太郎という美術コレクターの人間臭さを感じ取れる内容にもなっています。

2019年09月10日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー