【感想】「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ ― 線の魔術」(京都文化博物館、2019/10/12~2020/1/13)のレビュー

京都文化博物館で開催されている「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ ― 線の魔術」(会期:2019年10月12日~2020年1月13日)に行ってきました。アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)は、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家ですが、没後80年経った今でも世界中の人々に大きな影響を与えています。今回の展覧会は、そうしたミュシャの生涯を辿りながら、後世への影響力を実感できる内容になっていました。

「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」(京都文化博物館)「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」(京都文化博物館)

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

1.序 ― ミュシャ様式へのインスピレーション
2.ミュシャの手法とコミュニケーションの美学
3.ミュシャ様式の「言語」
4.よみがえるアール・ヌーヴォーとカウンターカルチャー
5.マンガの新たな流れと美の研究

 

第1章では、チェコのモラヴィアに生まれたミュシャが、ポスターデザイナーとして名声を築く1890年代までの時期に焦点が当てられています。ミュシャが8歳の時に描いた《磔刑図》や彼が収集した美術・工芸品が展示されていました。モラヴィアの民芸品である花瓶と、それを描いた静物画も展示されていましたが、油彩画家としての力量も大したものです。

 

第2章では、挿絵画家として仕事に取り組むことになった、1890年代のミュシャの当時の様子が伺えます。アカデミーで本格的な絵画を学んでいたミュシャでしたが、パトロンからの資金援助が打ち切られたことから、経済的な自立の必要性が出てきました。そこで、ミュシャが取り組んだのが、社会的な需要が増えてきた挿絵の仕事でした。ここでは、挿絵の習作も展示されていましたが、その緻密な表現には驚くばかりです。

 

第3章では、挿絵画家からポスター作家へと変貌する契機となった、サラ・ベルナールのための劇場ポスター《ジスモンダ》を中心に、ミュシャ様式が確立されていく様子が存分に味わえます。展覧会場では、女性の背後に円形モチーフを描き、花や植物、宝石などの装飾モチーフと組み合わせた、これぞ「ミュシャ」という芸術性を秘めたポスターが次々と登場します。後世のグラフィックアーティストに多大な影響を与えた「Q型方式」と呼ばれる構図がここでは満喫できます。

 

第4章からは、ミュシャが後世のアーティストに与えた影響を検証しています。ミュシャの死後、一旦忘れられつつあったミュシャ旋風でしたが、1963年に開催された回顧展を契機に、評論家たちがその曲線を主体とする描線を絶賛し、再びロンドンやサンフランシスコのグラフィック・アーティスたちに注目されることになります。ここでは、ミュシャの作品にインスパイアされたアーティストたちによるレコードジャケットやポスター、アメリカンコミックが多数展示されていました。

 

そして、最後の第5章では、日本のアニメ界に及ぼした影響が検証されています。まず、1900年代の雑誌『明星』の表紙には一條成美や藤島武二が描く女性像が登場しますが、まさに明治期の日本にもミュシャの影響が強く現れていることがよくわかります。そして、1970年代以降に現れた女性マンガ家たちによって、ミュシャ風の作品が続々と登場しています。

 

今回の展覧会を観るまでは、日本でもここまでミュシャの影響が強かったとは知らなかったのですが、少女マンガに特有の、あの目の中に描かれた星や髪をなびかせる装飾的な女性の姿は、まさにミュシャ様式だったんですね。同時代を生きたクリムトとはまた異なる影響を後世に及ぼしていたことがよく分かりました。展覧会場には、若い女性の姿が多く、女性の支持を受けていることがよく分かりました。

 

この展覧会は、Bunkamuraザ・ミュージアム(2019年7月13日~9月29日)を皮切りに、今回の京都文化博物館(2019月10月12日~2020年1月13日)、札幌芸術の森美術館(2020年1月25日~4月12日)、名古屋市美術館(2020年4月25日~6月28日)、静岡県立美術館(2020年7月11日~9月6日)、松本市美術館(2020年9月19日~11月29日)と巡回する予定です。図録(2,640円)も充実していて、ミュシャの生涯から後世への影響まで俯瞰して知ることができる内容になっています。

2019年12月31日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー