【感想】「あやしい絵展」(大阪歴史博物館、会期:2021/7/3~8/15)レビュー

大阪歴史博物館で開催されている「あやしい絵展」(会期:2021年7月3日~8月15日)に行ってきました。この展覧会では、「あやしい」をキーワードに、幕末から昭和初期に制作された様々な作品が紹介されています。グロテスク、エロティック、退廃的、神秘的といった表現で分類される、人間の欲望が絡んだ一連の興味深い作品がこの展覧会の主役です。

大阪歴史博物館あやしい絵展

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

1章 プロローグ 激動の時代を生き抜くためのパワーをもとめて(幕末~明治)
2章 花開く個性とうずまく欲望のあらわれ(明治~大正)
 2章-1 愛そして苦悩――心の内をうたう
 2章-2 神話への憧れ
 2章-3 異界との境で
 2章-4 表面的な「美」への抵抗
 2章-5 一途と狂気
3章 エピローグ 社会は変われども、人の心は変わらず(大正末~昭和)

 

1章では、プロローグとして、庶民が浮世絵や見世物に刺激を求めていた幕末から明治にかけての「あやしい絵」が展示されています。ここでは、妖怪を描いた歌川国芳の作品や月岡芳年による血なまぐさい作品が続いていました。

 

そして、本展のメインとなる2章が始まります。ここでは、作品を五つのパートに分けて展示していました。

 

最初の「愛そして苦悩」では、藤島武二、ミュシャ、ラファエロ前派のロセッティやエドワード・バーン=ジョーンズ、田中恭吉等の作品が並びます。藤島武二の《夫人と朝顔》も、確かに不思議な雰囲気を持っていますね。ロセッティの《マドンナ・ピエトラ》では、音声ガイドの詳しい解説を聞きながら、じっと裸の女性の姿を凝視していましたので、おそらく怪しい鑑賞者に見えたに違いありません。

 

「神話への憧れ」では、展示期間の問題で、青木繁の2作品のみ見ることができました。このテーマの作品は、もう少し欲しかったですね。

 

「異界との境(はざま)で」では、泉鏡花や谷崎潤一郎などの文学作品を題材にした「あやしい絵」が並んでいます。ここで作品を存分に味わうには、その背景にある物語のあらすじをある程度知っておく必要があります。展覧会場にも解説パネルがありましたが、安珍・清姫伝説、泉鏡花『高野聖』、谷崎潤一郎『人魚の嘆き』など、できれば教養として知っておきたいところですね。

 

「表面的な「美」への抵抗」では、心のありようが外面に現れた「あやしい女性」を描いた作品が次々と登場します。ここでは、北野恒富、島成園、梶原緋佐子、甲斐庄楠音、岡本神草、秦テルヲといった、その道の大御所の作品が堪能できました。このあたりの作品は、まさに「百聞は一見にしかず」という感じで、観ていただくしかありません。

 

「一途と狂気」では、一途な思いに囚われてしまった男女の姿や狂気の世界を描いた作品が展示されていました。ここでは、鏑木清方や北野恒富、上村松園、島成園、橘小夢たちによる見応えのある作品が並んでいました。

 

3章のエピローグでは、昭和初期に流行した“エロ・グロ・ナンセンス”を扱った、高畠華宵や山名文夫、小村雪岱たちが描いた雑誌の口絵や表紙絵、挿絵などが展示されていました。

 

今回の展覧会は、日本の作品がメインではありますが、世界的には「ファム・ファタール」(運命の女、魔性の女)を題材にした作品は数多くあります。そうした中で、日本で培われた文学作品との関連で生まれた魅惑的な作品が一堂に会した、興味深い展覧会でした。作品の背後に横たわる文学作品にも関心を広げたいですね。

展覧会情報

展覧会名:あやしい絵展
会場:大阪歴史博物館
会期:2021年7月3日(土)~ 8月15日(日)
休館日:火曜日(8/10は開館)
観覧料:大人1,500円(特別展のみ)
割引:あべのハルカス美術館「ポーラ美術館コレクション展」と相互割引あり
音声ガイド:600円(声優・平川大輔)
写真撮影:不可
図録:2,800円(A4変形、252ページ)
Web:大阪歴史博物館「あやしい絵展」
Web:「あやしい絵展」公式サイト
2021年08月03日|ブログのカテゴリー:2021年投稿, 展覧会レビュー