兵庫県立美術館で開催されている「開館50周年 超・名品展」(会期:2020年6月2日~6月7日)に行ってきました。この展覧会は、新型コロナウイルス感染症拡大予防のための臨時休館により、会期が6日間のみという超短期開催になってしまいました。
鑑賞希望者は、美術館の公式サイトからWeb予約で申し込むシステムになっていましたので、年配者には少しハードルが高かったかもしれません。ただ、予約状況を見ている限りでは、平日の飛び込み参加は十分可能だったと思います。
さて、特別展「開館50周年 超・名品展」は、当美術館が開館してから今年で50周年を迎えたことから企画された展覧会です。もっとも開館時は、所在地も名称(開設時の名称:兵庫県立近代美術館)も若干異なっています。そして、今回の展覧会のテーマは、「名品とは何か、何であったのか、そして美術館および観覧者にとって、どのような可能性を持ちうるのかを探る」という内容でした。
展覧会の構成は以下のとおりです。
Ⅰ 時代をさかのぼって
Ⅱ 芸術と芸術家の時代
Ⅲ 巨匠と大衆の時代
Ⅳ 美術館と歴史化の時代
第1章は、まな板の上に乗った豆腐と焼き豆腐、油揚げを描いた高橋由一の《豆腐》からスタートします。豆腐を油彩で描いた非常に珍しい静物画の登場に意表を突かれます。この章では、明治中期から大正初期にかけての作品が展示されていました。本多錦吉郎の《羽衣天女》は、兵庫県立美術館のコレクションなので見る機会も多かったのですが、今回は府中市美術館の《景色》という作品も並べて展示されており、人物をあえて小さく描くことで木々の壮大さを強調した画風に驚かされました。
他にも、浅井忠の《農夫帰路》や小山正太郎の《濁醪療渇黄葉村店》など、明治期を代表する画家の作品が続きます。また、第1回文展の最高賞を受賞した和田三造の作品《南風》(重要文化財)も展示されていました。これは、彼が24歳の時に描いた非常に力強い作品です。そして今回の展覧会では、絵画だけでなく、建畠大夢《おゆのつかれ》、北村四海《凡てを委ねる》、萩原守衛《女》といった魅力的な彫刻も展示されていました。
第2章は、大正期の作品が展示されています。ここでは、坂本繁二郎の《海岸の牛》や岸田劉生の《壺》など、まさに芸術家としての個性が輝く画家たちの作品が並びます。万鐵五郎の《ねて居るひと》と小出楢重の《裸女》という二人の裸婦を描いた作品が展示されていましたが、女性をあえて美化して描くことなく、彼らが感じたままの姿を描いているところが興味深いですね。
第3章は、昭和期前半の作品が展示されています。この時代は、個人より大衆が、芸術家より巨匠が幅を利かせた時代だと言います。安井曾太郎や梅原龍三郎といった巨匠の作品や棟方志功や谷中安規の版画、中山岩太や安井仲治の合成写真など、幅広い分野の作品が展示されていました。
第4章は、終戦直後から1970年までの作品を中心に展示されています。海老原喜之助の《船を造る人》という作品には、下から仰ぎ見る構図や空の強烈な青さに当時の希望が込められているようでした。展示会場では、津高和一の《母子像》の前で立ち止まって鑑賞している人が多いように感じました。抽象的な作品でありながら、母子という分かりやすい構図が心地よい作品です。ただ、その意味するところには深いものがありそうです。なぜ、子供は脚を折り曲げて外を向いているのでしょうか?
今回の展覧会は、兵庫県立美術館のコレクションを核に、国内の美術館から集められた名だたる画家たちの名品が勢揃いしていました。個人的には、彫刻作品に魅力を感じることも多く、一方で、菱田春草や入江波光、村上崋山などの日本画も静かな魅力を放っていました。今回は、会期も短くて見逃してしまったという方も多いと思いますが、図録が1,000円で販売されていますので、図版を通して楽しむこともできると思います。