【感想】「志村ふくみ展 いのちを織る」(姫路市立美術館、2020/7/4~8/30)レビュー

姫路市立美術館で開催されている「志村ふくみ展 いのちを織る 滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」(会期:2020年7月4日~8月30日)に行ってきました。今回は、後期展示を鑑賞しました。

 

この展覧会では、1990年に重要無形文化財「紬織」保持者(人間国宝)に認定された志村ふくみさん(1924-)が織り上げた着物や裂(きれ)、縞(しま)などが展示されています。志村さんは、植物染料で染めた絹糸を使って色彩豊かな紡織(つむぎおり)を製作されており、2014年に第30 回京都賞(思想・芸術部門)、2015年には文化勲章も受章されています。

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

第1章 近江八幡にて(1956-1967)
第2章 嵯峨Ⅰ(1968-1989)
第3章 嵯峨Ⅱ(1990-現在)

 

基本的に、年代順に作品が展示されていますので、志村ふくみさんのこれまでの歩みが作品を通して概観できる構成になっています。第1章では、本格的に制作した最初の作品となる《秋霞》の藍の美しさが印象的で心に染みこんできました。

 

第2章では、赤糸と青糸のみを使って幻想的な紫色を生み出した《色と光のこころみ》という作品が特に印象的でした。この展覧会では、解説パネルも豊富に掲示されており、制作の背景も知ることができます。純和風のイメージとは裏腹に、「色彩と線の魔術師」と呼ばれるパウル・クレーやルドルフ・シュタイナーの芸術論、ゲーテの色彩論などの影響を多分に受けられたという解説に驚きました。

 

「植物の命の色をいただく」「蚕の命の糸を紡いで織る」と言った言葉に象徴される志村さんの芸術観には、自然の下に生かされている人間の謙虚さがにじみ出ていますが、単なるアニミズム的な自然観ではなく、深い思想性や芸術観にも裏打ちされているようです。

 

第2章と第3章の間には、映像コーナーが設置されていて、作品の解説映像と京都賞シンポジウムで紹介された映像が流れていました。解説映像に関してはHP上(8/6時点では未公開)でも見られるようになる予定です。一方、京都賞シンポジウムで紹介された映像は、YouTubeで見ることができます。

 

第3章は、『源氏物語』シリーズの紬織や春夏秋冬をイメージした様々な裂が展示されていました。小さな裂を見ていますと、その一つひとつの色鮮やかな美しさに驚かされます。

 

今回は、通常の絵画展とは異なり、一面に着物が並ぶという壮大な展示でしたが、鑑賞者のなかには、着物を着て来られている方々もいました。「礼」の心を感じさせられる展覧会でもありました。

 

尚、今回は美術館の前庭で、「たまはがねの響き 音と光のインスタレーション」(会期:2020年7月4日~8月30日)も開催されていました。私は昼間に行ったので音を楽しむことになりましたが、夜に行くと光と音の芸術が楽しめるようです。また、入り口のQRコードを読み取って、前庭でYouTubeの音楽を再生すると、前庭の音楽に同調するようになっています。

2020年08月06日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー