国立国際美術館で開催されている「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」(会期:2020年6月2日~10月11日)に行ってきました。この展覧会は、世界で注目されているアーティスト、ヤン・ヴォーの日本の美術館では初の個展となります。ヤン・ヴォーは、ベトナム出身で現在はベルリンとメキシコ・シティを拠点に世界各地で活躍しておられます。
通常の展覧会に見られる章立てのような構成は特になく、解説パネルや音声ガイドの案内表示もありませんでした。これは、展示空間そのものが作品ですので、こうしたものが作品を損なうことに繋がるからかもしれません。
ただ、音声ガイドがあったことは助かりました。音声ガイドなしでも鑑賞できますが、それだと作品の上っ面を表眼的に眺めるだけで終わってしまう可能性があります。手紙の展示など、英語が理解できれば多少は理解できる部分もありますが、想像を働かせるにも限界があるでしょう。
ヤン・ヴォーは、基本的に歴史的に意味のあるレディ・メイド(既製品)を使って作品を制作しています。現代アーティストには、身近な日常品を使って作品を制作している方もおられますが、ヤン・ヴォーの場合は、歴史的に意味のある既製品をオークションで買い取り、それを利用して作品化することが多いようです。
例えば、今回の展覧会では、ベトナム戦争を決定した時にケネディ政権の閣議室にあった椅子を買い取り、それを解体して作品に利用しています。また、ベトナム戦争中に、キッシンジャー大統領補佐官とブロードウェイのコラムニストとの楽しげなやり取りが記された手紙なども展示されていました。
ベトナム戦争が終結した1975年に生まれたヤン・ヴォーは、4歳の時に父親の手製のボートに乗ってベトナムを逃れています。これは、当時の社会主義体制を嫌っての亡命でした。こうしたヤン・ヴォー自身の過去の記憶や歴史をもとに制作された作品が中心になります。ですので、そうした歴史的な理解抜きには、その作品の真意に迫ることは難しいと思います。
この展覧会の来館者は、意外なほど若い人が多いという印象を受けました。一般的な美術展の主体とも言える年配の女性は少なく、20~30代くらいのオシャレな男女もかなり鑑賞されていました。カップルで来られている方もいました。やはり現代アートが主体の国立国際美術館ならではの光景かもしれません。
ただ、音声ガイドを利用している方は少なかったので、どこまで内容が理解できたかには、一定の疑問が残ります。現代アートの雰囲気を楽しんでいるだけなのかもしれません。それはそれで良いのですが、やはりそうした方々にもわかるような最低限の解説は、美術館側にも必要な気がしました。
図録も販売されていましたが、今回の作品を直接取り扱った図録と言うより、ヤン・ヴォーに関する図録というイメージです。ちなみに、新たな図録も後日発刊されるようです。