【感想】「わが青春の上杜会―昭和を生きた洋画家たち」(神戸市立小磯記念美術館、2020/10/3~12/13)レビュー

神戸市立小磯記念美術館で開催されている「わが青春の上杜会―昭和を生きた洋画家たち」(会期:2020年10月3日~12月13日)に行ってきました。この展覧会は、東京美術学校始まって以来の“秀才揃い”と称された1927年卒業生らが結成した美術団体「上杜会」の画家たちに焦点を当てた内容になっています。

神戸市立小磯記念美術館「わが青春の上杜会―昭和を生きた洋画家たち」神戸市立小磯記念美術館「わが青春の上杜会―昭和を生きた洋画家たち」

 

上杜会という名称は、東京美術学校が建っていた「上野の森(杜)」に由来していて、彼らがアイデアを出して投票で決めたと言います。この展覧会は、こうした上杜会にまつわる画家たちの作品をまとめて鑑賞できる貴重な機会となりました。今回、初めて知った画家もたくさんいました。

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

 

序 1922-1927
 序-1.結成前夜――東京美術学校と関東大震災
 序-2.いざ、上杜会結成

Ⅰ.1927-1936
 Ⅰ-1.画家としての始まり、パリ留学
 Ⅰ-2.それぞれの選択
 Ⅰ-3.帝展騒動と「新制作派協会」結成

Ⅱ.1937-1945
 Ⅱ-1.戦時中の制作活動
 Ⅱ-2.戦争と疎開

Ⅲ.1946-1994
 Ⅲ-1.新たな時流の中で 葛藤と開花
 Ⅲ-2.上杜会再会――年々去来の花

 

「序 1922-1927」では、まず、当時の上杜会メンバーを教えていた教授陣の作品を見ることができます。藤島武二、和田英作、岡田三郎助、小林萬吾、長原孝太郎の5名となります。実は、入学当初には黒田清輝もいましたが、まもなく亡くなったため、実質上は上記の5名から指導を受けています。

 

教授陣の作品はいずれも流石の出来栄えでした。藤島武二に関しては、3点の作品が展示されていましたが、それぞれ画風が大きく異なり、改めてその力量を感じました。続いて、学生時代の中西利雄、小磯良平、矢田清四郎の作品が展示されていましたが、これがまた見応えのある作品でした。

 

「Ⅰ.1927-1936」では、高野三三男《人形をもったパリジェンヌ(アルルカンとコロンビーヌ)》や山口長男《室内》、中西利雄《モンテカルロ》など、印象的な作品に出会えました。また、橋口康雄の水彩画の色使いは鮮烈で感動的でした。

 

そして、今回の展覧会では、私が個人的に好きな牛島憲之の作品が各章に渡って数点展示されていましたが、いずれも幻想的で懐かしい気持ちにさせてくれました。

 

「Ⅱ.1937-1945」では、戦時中の作品が展示されていましたが、小磯良平の兵士を描いたデッサンや《日緬条約調印図》は流石です。そんな中で、猪熊弦一郎の《長江埠の子供達》は異様な雰囲気を醸し出していて、心に迫ってくるものがありました。

 

「Ⅲ.1946-1994」では、戦後から90年代の作品が展示されていました。既にベテランの域に達した上杜会のメンバーたちですが、抽象的な作品も増えてきます。牛島憲之の作品は《炎昼》《まるいタンク》《青田》が展示されていましたが、何れも不思議な世界観を秘めた作品で、どこか郷愁を感じます。

 

出雲地方で見られる築地松を描いた矢田清四郎の《五月の出雲路》は、美しくもあり不思議な作品でした。また、ルソー的な雰囲気を持った加山四郎《秋の庭》や、岡田謙三の《窓辺(ノクターン)》なども印象に残る作品でした。

 

今回は、上杜会という枠組みのなかでの作品群でしたが、まだまだ自分の知らない画家たちの素晴らしい作品が、日本にも世界にもたくさんあるんだと思うと、美術館巡りの日々はまだまだ続きそうです。心ときめく美術作品との出会いを求めたこうした美的ライフスタイルは、ある意味で贅沢な生き方なのかもしれません。美術館や展覧会の内容によって、メインとなる鑑賞者の性別や年齢も大きく異なりますが、そうした変化を感じるのも楽しみの一つです。

2020年11月11日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー