兵庫陶芸美術館で開催されている「No Man’s Land-陶芸の未来、未だ見ぬ地平の先-」(会期:2021年3月20日~5月30日)に行ってきました。この展覧会では、1970~1980年代生まれの15名の作家が制作した作品を通して、「陶芸の未来」を再考しようとする試みがなされています。
展覧会の構成は作家別に展示されていました。
稲崎栄利子 Inazaki Eriko(1972- )
林茂樹 Hayashi Shigeki(1972- )
増田敏也 Masuda Toshiya(1977- )
金理有 Kim Riyoo(1980- )
若杉聖子 Wakasugi Seiko(1977- )
出和絵理 Dewa Eri(1983- )
木野智史 Kino Satoshi(1987- )
谷穹 Tani Q(1977- )
かのうたかお Kano Takao(1974- )
見附正康 Mitsuke Masayasu(1975- )
松村淳 Matsumura Jun(1986- )
秋永邦洋 Akinaga Kunihiro(1978- )
度會保浩 Watarai Yasuhiro(1981- )
山村幸則 Yamamura Yukinori(1972- )
新里明士 Niisato Akio(1977- )
展示は、稲崎栄利子さんの作品から始まりますが、不思議な世界観を持った作品群です。磁土とガラスを使った繊細な作品に驚かされます。あたかも、命を持った土の結晶たちの姿を眺めているかのようです。
林茂樹さんの作品は、磁土を利用した人型の楽しい作品ですが、直接触れてみなければ、それが樹脂製だと言われても納得してしまいます。しかし、それをあえて磁器で制作しています。
増田敏也さんの作品は、粗いデジタル化の姿を表現しているところが特徴で、近代化しようとする昭和的な雰囲気が漂っています。一方、金理有さんの作品は現代的です。解説パネルの自己紹介文を読んでも意味不明ですが、作品そのものの出自は意外とシンプルなのかもしれません。
若杉聖子さんの作品は、植物を中心として、自然から得たインスピレーションに基づく白い作品群です。一方、出和絵理さんの作品は、精巧な紙細工かと思わせるような白い組み立て作品です。
木野智史さんの作品は、空間に余韻を残す造形をテーマに掲げた作品で、リボン状のものを螺旋に昇華させることで、作品内に空間を取り込んでいます。
谷穹さんの作品は、室町時代の信楽焼に秘められた幽玄思想を現出させる試みで、ガラス展示室の中と床に置かれた一対の壺が干渉し合っています。
かのうたかおさんの作品は、今回の展示作品の中で一番の衝撃を受けました。言うなれば、陶芸の世界でのキュビスム的作品です。私たちが見ているものの正体は一体何かを問いかけてくれる作品です。
見附正康さんの作品は、九谷焼の伝統技法である赤絵細描を駆使した作品で、鉢の内側全体に幾何学的な文様が描き込まれています。
松村淳さんの作品は、斬新な近代的フォルムの陶芸と光を組み合わせた作品で、アニメの世界に出てきそうな造形です。一方、秋永邦洋さんの作品は、脊椎動物の骨格をモチーフにし、それらをデフォルメしたパーツを組み立てて制作しています。興味深い作品に仕上がっています。
度會保浩さんの作品は、ステンドグラス風の作品で、立体的な窓や容器をガラスや金属、磁土を用いて制作されています。心地よい作品です。
山村幸則さんの作品は、壺を自身の上部に投げ上げてその瞬間を撮影し、それを陶板にした作品やその様子を映像に収めたビデオ、自然の音、壁に貼り付けられた原土のかけら、室町時代の古丹波の壺、などからなる複合作品です。壺を投げ上げて受け止めているシュールな様子に、思わず笑ってしまいます。
最後は、受付ロビーの横に展示されている新里明士さんの作品です。用と美の関係性を問いかけた作品で、光をテーマにしています。器の周囲に無数の小さな穴が開けられており、それらが心地よく調和しています。
今回の展覧会では、陶芸の可能性を探る作家たちの挑戦を垣間見ることができます。その向き合い方は様々ですが、それらが今後どのように進展していくのか、或いは消えていくのかわかりませんが、ここにその萌芽があるようです。