【感想】「吉村芳生~超絶技巧を超えて~」(神戸ファッション美術館、会期:2021/4/10~6/20)レビュー

神戸ファッション美術館で開催されている「吉村芳生~超絶技巧を超えて~」(会期:2021年4月10日~6月20日)に行ってきました。この展覧会は、色鉛筆を用いた細密絵画で知られる吉村芳生(1950-2013)の個展となります。

神戸ファッション美術館吉村芳生~超絶技巧を超えて~

 

今回の展覧会では、その制作手法も明かされており驚きの内容でした。まさに、アナログな対象物を視覚と手によってデジタル変換することで作品が生み出されていました。

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

第1章 ありふれた風景
第2章 自画像の森
第3章 百花繚乱

 

第1章では、初期の作品が展示されています。まず、全長17m近くに及ぶ金網の鉛筆ドローイングから始まります。この作品は、実際の金網を用いて型を取り、それを鉛筆で丁寧に描写されているようです。

 

他の作品では、通りやジーンズなどの写真を細かいマス目に区切り、それらのマス目を濃淡に合わせて数値化し、その数値を一定の表現に翻訳しながら描写することで、粗いデジタル写真のように再構成しています。例えば、新聞を拡大すると白と黒のドットの集まりですが、そうした手法を用いて作品を制作していると言えるでしょう。

 

第2章では、吉村氏のライフワークとも言える《新聞と自画像》が登場します。これらの作品は、新聞に自画像を重ね合わせることで出来上がっています。吉村氏は、新聞は社会の肖像であって、自画像と同じだと考えていました。そこで、新聞を読んだ後の自分の表情を新聞に重ね合わせることで、日記風のインパクトのある作品が生まれていました。

 

第3章では、色彩豊かな花を色鉛筆で描いた美しい作品が登場します。どの作品も大型で、制作に極めて時間が掛かっていると思われますが、とにかく描写が細かいです。

 

ふじの花のひとつひとつが東日本大震災で亡くなった人の魂を表現している《無限の輝く生命に捧ぐ》という作品では、金網に沿って咲いたふじの花の写真をもとに、そこから背景を消して詳細に描かれていました。右端は未完成のような描き方になっていますが、それにも意味があるのでしょう。

 

《未知なる世界からの視点》という全長10m超えの作品では、川辺に咲く草花とそれらが水面に映る様子が描かれていますが、最後に作品の上下を逆さまにすることで、タイトル通りの作品に仕上がっていました。

 

絶筆となった《コスモス》では、右端が未完成の状態で残っており、制作のプロセスを垣間見ることができました。全体的な下書きなどは全くなく、一コマずつマス目を埋めるように描かれていたことがわかります。

 

全体的な印象として、直感的な芸術性に頼るわけでなく、かなり技術的な手法を駆使して作品を制作されていることがわかりました。文系というより、理系的な発想で描かれているようにも感じました。

2021年06月09日|ブログのカテゴリー:2021年投稿, 展覧会レビュー