京都国立近代美術館で開催されている「モダンクラフトクロニクル―京都国立近代美術館コレクションより―」(会期:2021年7月9日~8月22日)に行ってきました。この展覧会は、京都国立近代美術館がこれまでに開催してきた工芸関連の国際展を振り返りつつ、所蔵する工芸コレクションをもとに近代工芸の進展を紹介しています。
とにかく、展示点数が多い展覧会で約300点の作品が展示されていました。展示会場も、1F展示ロビーから始まり、3F企画展示室、4Fコレクション・ギャラリーエリアへと続いています。4Fコレクション・ギャラリーエリアは、そのまま「2021年度 第2回コレクション展」とつながっていました。
展覧会の構成は以下のとおりです。
第1章 世界と出会う 起点としての京都国立近代美術館
第2章 四耕会、走泥社からクレイ・ワーク、ファイバー・ワークへ
第3章 「美術」としての工芸 第8回帝展前後から現在まで
第4章 古典の発見と伝統の創出
第5章 新興工芸の萌芽 自己表現としての工芸
第6章 図案の近代化 浅井忠と神坂雪佳を中心に
第7章 手わざの行方
第1章の大半は、1F展示ロビーで鑑賞します。ここはチケット提示前の展示コーナーなので無料エリアになるのでしょうか。ここでは、京都国立近代美術館でこれまでに開催された工芸に関する国際展が、当時のポスターと展示品によって紹介されていました。同館が日本の工芸界に果たした成果の確認とも言えるでしょう。一口に工芸と言っても、陶器から立体、織物、ガラス、アクセサリーまで、多種多様な海外アーティストによる作品が展示されていました。
第2章では、第二次世界大戦後の新たな展開として、陶芸分野における四耕会や走泥社に属する作家たちの作品が展示されていました。非実用的な作品がメインで、クレイ・ワークと呼ばれる土(クレイ)を使った現代美術的な立体陶芸作品やファイバー・ワークと呼ばれる繊維素材(ファイバー)を自由に用いた作品が並びます。
第3章は、1927年に帝展に第四部美術工芸が設置されたことで、工芸が美術制度に組み込まれた時代以降の作品が展示されています。自由な発想で美しい造形の作品が鑑賞できます。望月重延《大空へ》、越智健三《植物の印象》、中野光雄《夜の遊園地にて》などが印象に残りました。
第4章では、大正末頃から登場する、古典の復興や再評価をしようとする作家たちによる作品が並びます。ここでは、民芸運動や伝統工芸と呼ばれる作品群で、“工芸”というイメージを代表するような作品を観ることができました。
第5章は、大正時代に登場した「近代工芸」と呼ばれる流れの作品が展示されています。自分が使いたい素材やテーマを素直に表現した作品が登場しています。富本憲吉やバーナード・リーチ、津田青楓、河合卯之助、藤井達吉たちの作品が中心になります。
1900年に開催されたパリ万博ではアール・ヌーボー様式が席巻し、日本工芸は美術ではなく、応用美術として高い評価を得ました。第6章では、こうした状況に危機感を抱いた浅井忠を中心に、神坂雪佳たちが図案を考案し、工芸家と共同制作した作品が展示されています。日本の底力を感じさせる作品群でした。
第7章では、いわゆる“超絶技巧”と呼ばれる、明治以降の作品が並んでいます。ある意味で、その凄さが理解しやすい作品かもしれません。当時は輸出向けの過剰装飾として評価されなかったようですが、近年は再評価されています。
この展覧会は、近代工芸の流れを7章に分けて概観しようとする試みです。本来であれば、章ごとのテーマで展覧会が開催できそうですが、それらを“まとめ出し”していますので、あたかも大きな百貨店に入って戸惑ってしまったような感覚に襲われました。ある意味で、コロナ禍において大型美術館でしかできない記念碑的な企画と言えるでしょう。
尚、今回の展覧会に合わせて、「京都国立近代美術館 所蔵作品目録ⅩⅢ[工芸]」が出版されています。これは、同館が所蔵する工芸作品を全て網羅するというものです。作品写真の掲載が約3,400点で、総ページ数440ページというボリュームです。これは、図録というよりカタログという位置づけでしょう。
展覧会情報
会場:京都国立近代美術館
会期:2021年7月9日(金)~ 8月22(日)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)
観覧料:一般1,200円
割引:本料金でコレクション展も観覧可能
音声ガイド:無料(スマホアプリ利用)
図録:3,900円(京都国立近代美術館 所蔵作品目録ⅩⅢ[工芸])
Web:京都国立近代美術館「モダンクラフトクロニクル」