展覧会の概要
中之島香雪美術館で開催されている「柳橋水車図の世界」(会期:2021年10月2日~11月21日)に行ってきました。この展覧会では、香雪美術館所蔵《柳橋水車図屏風》を中心に、その関連作品が紹介されています。
展覧会の構成
Ⅰ 浄土への橋
Ⅱ 料紙装飾と柳橋水車
Ⅲ 橋の神秘-物語と実景のはざま
Ⅳ 柳橋水車図屏風の成立
Ⅴ 柳橋水車図の展開
感想①「主役と脇役」
この展覧会の主役は、何と言っても香雪美術館が所蔵する《柳橋水車図屏風》です。ある意味で、その他の作品は、この《柳橋水車図屏風》を盛り上げるための脇役であるかのように感じました。
しかし、これは決して悪い意味ではなく、非常にストーリー性のある良い展覧会だったということを意味しています。展示点数は多くありませんが、“柳橋水車図”という観点から、ひとつひとつの関連作品をじっくり味わうことができる良い機会となりました。
橋と柳、水車、蛇籠、柴船というテーマを組み合わせて、京都の宇治を表現するモティーフになっているんですね。また、この橋は浄土へとつながる道でもあり、その先に西方極楽浄土を表現した宇治の平等院が待ち構えているというわけです。こうして見ると、美術や文学の世界で「柳橋水車図」が流行した理由がよく分かります。
感想②「柳橋水車図屏風は工芸品だ」
「柳橋水車図屏風」という作品は、屏風絵でありながら、その本当の姿は“工芸品”だったということがよく分かりました。
展示室では、香雪美術館が所蔵する長谷川等伯《柳橋水車図屏風》以外に、他の《柳橋水車図屏風》も展示されていました。それらを比較すると、作者のこだわりが見えてきます。前期展示では、月を金属で表現したり、金箔の貼り方や蛇籠の描き方など、様々な違いが見られる作品がありました。
以前、福田美術館で長谷川等伯《柳橋水車図屏風》が展示されていた時、その写真を撮っていたのですが、改めてそれを観てみると、香雪美術館が所蔵する作品と比べて大まかな構図は同じですが、柳の表現など細部は結構違いますね。
感想③「背後に横たわるストーリー」
“柳橋水車図”にまつわる物語が作品を介して紹介されていました。こうした作品の背後に横たわるストーリーは、その時代を生きる人々の興味関心が反映されていて面白いですね。
以前、「あやしい絵展」を鑑賞したときにも、作品の背後にあるストーリーを知ることで、その作品が持つ魅力がより深くなることを経験しましたが、今回も同様でした。流行するようなテーマには、やはり、それなりの魅力的なストーリーが横たわっているようですね。
感想メモ
大型美術館の場合、その広い展示スペースを埋めなければならないという命題がありますので、どうしても百貨店的な展示内容になりがちです。これはこれで派手で魅力的ではありますが、限られた美術作品をじっくり味わうという意味では、今回のようなコンパクトな展覧会の方が優れているよう思います。
展覧会を鑑賞した後で、自分は今日何を学んだのだろうかと自問自答する時、テーマを絞った展覧会は記憶に残りやすく、学びを確認しやすいですね。美術展をエンタメのひとつとして「楽しかった」で終わらせることもできますが、私は、やはりそれだけでは勿体ない気がしてしまいます。
展覧会情報
柳橋水車図の世界
会期:2021年10月2日(土)~11月21日(日)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
観覧料:1,100円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:不可
図録:2,400円
Web:中之島香雪美術館「柳橋水車図の世界」