展覧会の概要
国立国際美術館で開催されている「ボイス+パレルモ」(会期:2021年10月12日~2022年1月16日)に行ってきました。これはドイツ出身で師弟関係にあった、彫刻家・ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)と画家・ブリンキー・パレルモ(1943-1977)の展覧会になります。
ボイス展は日本では約10年ぶり、パレルモ展は国立美術館では初めての開催となるそうです。社会を一個の彫刻とみなし、芸術による社会変革を夢見ていたというボイスと、絵画の条件を再考していたパレルモですが、両者ともに、芸術を生の営みへと引き戻そうとしていたと言われています。
展覧会の構成
プロローグ:ヨーゼフ・ボイスとブリンキー・パレルモ
1 ヨーゼフ・ボイス:拡張する彫刻
2 パレルモ:絵画と物体のあわい
3 フェルトと布
4 循環と再生
5 霊媒的:ボイスのアクション
6 再生するイメージ:ボイスのドローイング
7 蝶番的:パレルモの壁画
8 流転するイメージ:パレルモの金属絵画
エピローグ:声と息
※作品リスト参照(ギャラリーガイドと若干異なる)
感想①「ヨーゼフ・ボイス」
この展覧会では、ボイスの作品とパレルモの作品がテーマに合わせて単独、或いは組み合わせて展示されています。ボイスの作品は作品番号に“B”、パレルモの作品は“P”が記載されています。個々の作品のタイトルキャプションに作家名が記載されていませんので、それで区別することになります。
ボイスとパレルモの写真に続いて、展示会場で最初に目にするのが、《ユーラシアの杖》とそれを用いたアクション動画です。脂肪の塊やフェルトで包まれた木材、銅の棒を用いたパフォーマンスですが、最初から意味不明の世界が展開します。
解説によると、ボイスは様々な二極構造(秩序と混沌、水平と垂直など)を提示していて、ユーラシアの杖がそれらを繋ぐための道具だと言います。
作品そのものより、その芸術思想が注目されることが多いボイスですが、彼のパフォーマンス映像を見る限り、その芸術思想に詳しくないものから観ますと、もやは狂気の世界が展開しているとしか思えません。
例えば、《死んだウサギに絵を説明するには》では、頭や顔にハチミツを塗って金箔を貼ったボイスが、死んだウサギを抱えて、ウサギに自分の絵の説明をしています。観客は外からそれを眺めていますが、ボイスの声は彼らには聞こえないという内容です。
配布されているギャラリーガイドの解説を読んでも、哲学的な考察が多く、非常に難解な展覧会でした。こうした現代美術の展覧会では、音声ガイドの利用が欠かせませんね。ただ、その音声ガイドを聞いても難解なことには変わりませんが・・・・・・。
感想②「ブリンキー・パレルモ」
ボイスの教え子であったパレルモは、ボイスから“自分に最も近い表現者”と評されていました。そんなパレルモの作品は、ボイスのそれと比べるとまだ分かりやすい内容でした。
印象的だったのは、長い三本の交叉した木枠と、それに小さな布が張られた無題の作品でした。通常、絵画の構成要素として、木枠とそれを覆う布があります。確かに、その観点からするとこの作品を絵画と呼べないこともないですが、これはどう見ても物体に過ぎません。
《青い三角形》という作品は、青い三角形を購入者が制作するためのステンシルキットになっています。説明書きに、「ステンシルを使ってドアの上に青い三角形を描いてください。その後、オリジナルシートは破棄すること。」と記載されています。果たして、ステンシルを使って描いた青い三角形は自分の作品なのでしょうか、それともパレルモの作品なのでしょうか? こうした問いかけをパレルモはしています。
感想メモ
国立国際美術館の公式サイトには、「本展覧会が、芸術と社会の関係について考察し、芸術とは何でありえるのかと問う機会になることを願います。」と書かれています。確かに、何らかの結論を得ることが目的でなくて、芸術とは何かを自らに問いかける機会とする、と言う意味ではその通りかもしれません。
この展覧会は、誰が観ても無条件に美しいと感じる展覧会ではなく、芸術の役割やその意味について自らに問いかけることを目的とした展覧会ということになりそうです。より詳しく考察したい方は、図録も販売されていますのでご利用ください。
展覧会情報
ボイス+パレルモ
会期:2021年10月12日(火)~2022年1月16日(日)
休館日:月曜日(ただし、12月27日(月)-1月3日(月)は休館、1月10日(月・祝)は開館し、1月11日(火)は休館)
観覧料:1,200円(一般)
音声ガイド:500円(コレクション展と共通)
写真撮影:不可
図録:3,960円
Web:国立国際美術館「ボイス+パレルモ」