【書評】図録『没後130年 河鍋暁斎』のご紹介!

兵庫県立美術館で開催されていた「没後130年 河鍋暁斎」(会期:2019年4月6日~5月19日)の図録をご紹介します。この展覧会は、前期と後期に分かれており、前期と後期で展示作品の入替えも多く合計206点の展示数となっています。

 

したがって、図録ではそれらの作品を全て掲載しているので、ページ数が全296ページに達し、赤の分厚い表紙と相まって結構重厚な装丁になっています。しかし、それでも横長の作品やシリーズ物などはかなり縮小して一括掲載されているので、本来ならもっとページ数が増えても仕方がない状況でしょう。価格は2,500円です。

図録『没後130年 河鍋暁斎』

 

<目次>

ごあいさつ
謝辞
河鍋暁斎 ― 没後130年を迎えて 河鍋楠美
暁斎は美術館におさまらない 木下直之

図版
第1章 幅広い画業
第2章 眼の思索 下絵からはじまるネットワーク
第3章 民衆の力
第4章 身体・精神をつむぐ幕末明治
特集展示 エルヴィン・フォン・ベルツと暁斎

河鍋暁斎 幕末明治のネットワーク芸術 村田大輔
河鍋暁斎と富岡鉄斎 西田桐子
暁斎の「写生」と創造された絵画 加美山史子
主要作品解説
年表
これまでの河鍋暁斎展
暁斎を巡る人々
作品リスト

 

図録の構成としては、最初に図版だけをまとめて掲載し、個々の作品解説は後ろにまとめて掲載するスタイルです。作品解説では、一部の作品を省いたりシリーズ物をまとめて解説したりしていますが、それでも多くの作品に対し丁寧な解説がなされています。

 

非常に幅広い仕事を手がけた河鍋暁斎ですので、その作品スタイルもさまざまで、横長の作品や縦長の作品など、図録の制作にも苦労の後が伺えます。今回の展覧会では、仕事のプロセスが目に見える下絵の展示数も多かったので、本図録には完成作品のみならず、そうした貴重な下絵が多数掲載されているところも見どころのひとつです。

 

河鍋暁斎の曾孫で、河鍋暁斎記念美術館の館長をされている河鍋楠美氏による論稿「河鍋暁斎 ― 没後130年を迎えて」では、数々の奇行の逸話が誇張されて広がった結果、河鍋暁斎の人物像が間違って伝えられてしまったところもあり、それらを正したいという思いが強く感じられました。

 

一方、静岡県立美術館館長の木下直之氏による論稿「暁斎は美術館におさまらない」では、神田神社の衝立や成田山に奉納する絵馬、戸隠神社の天井画制作に関する逸話など、具体的な事例をもとに、改めて河鍋暁斎という人物の大きさや人情が感じられる内容となっています。

 

兵庫県立美術館学芸員の村田大輔氏による論稿「河鍋暁斎 幕末明治のネットワーク芸術」では、一風変わった論点からの解説になっています。暁斎の幅広い人的ネットワークに注目し、そうしたネットワークが暁斎を生かし、さらに暁斎の作品がそうしたネットワークをより一層増殖させているという観点に注目しています。こうした日本文化に特徴的なネットワーク芸術論を展開されています。

 

同じく兵庫県立美術館学芸員の西田桐子氏による論稿「河鍋暁斎と富岡鉄斎」では、生年が5年しか違わない二人の画業を対比させながら、その共通点や相違点について論じています。改めて、暁斎の人生がもう少し長ければどうなっていたかと思うと、やはり残念な気持ちは拭えませんね。

 

最後に、河鍋暁斎記念美術館の主任学芸員の加美山史子氏による論稿「暁斎の「写生」と創造された絵画」では、暁斎の際立った特徴のひとつでもある「写生」についての解説がなされています。模写より写生を重視したとされる暁斎ですが、西洋人から見てもその写生法は極めて特異だったようです。暁斎は、記憶力を鍛え上げその際立った記憶力を駆使して作品を制作したことが詳細に述べられています。

 

2019年06月27日