展覧会の概要
あべのハルカス美術館で開催されている「コレクター福富太郎の眼 昭和の名実業家が愛した珠玉のコレクション」(会期:2021年11月20日~2022年1月16日)に行ってきました。この展覧会は、キャバレー王の異名を持つ実業家・福富太郎が、権威に頼らず自らの審美眼に従って収集した貴重なコレクションが鑑賞できる機会となっています。
展覧会の構成
Ⅰ コレクションのはじまり 鏑木清方との出逢い
Ⅱ-1 女性像へのまなざし 東の作家
Ⅱ-2 女性像へのまなざし 西の作家
Ⅲ-1 時代を映す絵画 黎明期の洋画
Ⅲ-2 時代を映す絵画 江戸から東京へ
Ⅲ-3 時代を映す絵画 戦争画の周辺
感想①「鏑木清方の魅力」
この展覧会では、全出品作80点のうち鏑木清方の作品が13点を占めており、他の作家の出品数を圧倒しています。これからも分かるように、福富太郎は鏑木清方の作品収集に力を入れていました。この背景には、父親が大切にしていた鏑木清方の掛け軸を空襲で焼失してしまった、という苦い経験があるようです。
福富太郎は、収集した作品を鏑木清方本人に観てもらい本物がどうか確認していました。福富が収集した鏑木作品は、《刺青の女》や《薄雪》《妖魚》など、他の展覧会でも目にする機会が多く、改めてその審美眼に驚かされます。
他にも、幻想的で意味ありげな《社頭春宵》や、背景を銀で塗りつぶした《銀世界》、風景を伴った美人を描いた《春の女客》など、印象的な作品が多いですね。鏑木清方の魅力がよくわかる作品群でした。
感想②「妖艶な女性美」
キャバレー王の異名を持つ福富太郎のコレクションだけあって、妖艶で魅力的な女性を描いた作品が揃っています。菊池容斎《塩冶高貞妻出浴之図》や渡辺省亭《塩冶高貞妻浴後図》《塩冶高貞之妻》という、着物がはだけた半裸の女性を描いた一連の作品は面白いですね。
池田輝方《お夏狂乱》、松本華羊《殉教(伴天連お春)》、北野恒富《道行》、島成園《春の愁い》《おんな》など、これこそ“福富太郎コレクション”だと言える内容で、好きな方には堪らない作品でしょう。
一方で、上村松園の美人画は1点だけ展示されていましたが、上村松園の作品は今ひとつ惹かれなかったようです。上村松園は、裸の女性を描く際にいやらしくならないように注意していたと言いますから、当然の結果かも知れませんね。
感想③「作品の背後に垣間見える悲しみ」
今回の展示作品全般を眺めて感じたのが、それらの作品の背景にある“悲しさ”です。失恋で狂った女性や心中する男女など、どこか悲しげな作品が多いように感じました。
子どもたちが輪になって遊んでいる様子を描いた竹久夢二《かごめかごめ》もありましたが、福富太郎は画中の女の子たちの姿に、幼い頃に亡くなった妹の姿を見ていたというエピソードが残っています。
他に、戦争画に対しても思い入れが強く、満谷国四郎《軍人の妻》という作品は、海外のオークションで落札しています。夫の遺品を載せた盆を持つ妻を描いた作品ですが、女性の眼に微かに涙が溜まっているのが印象的です。
こうした悲しさへの共感が福富太郎の人間味溢れる感性へとつながっているのでしょう。単なる妖艶な作品を求めたのではなく、その奥にある悲しさを見ていたように感じました。
感想メモ
今回のような個人コレクターが集めた作品の展覧会では、その収集家の好みや審美眼だけでなく、心の中も見えてくるようで面白いですね。福富太郎のように、世間の評判といった権威に拠らずに自らの判断で作品を収集している方の場合は特にそうですね。
この展覧会の図録は、ハードカバーの表紙にのぞき穴が空いていて、そこから北野恒富《妖魚》の顔が見えるようになっています。 一風変わった装丁ですが、充実した内容になっています。
美術展情報
コレクター福富太郎の眼
会期:2021年11月20日(土)~2022年1月16日(日)
休館日:2021年11月29日(月)、12月31日(金)、2022年1月1日(土)
観覧料:1,500円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:不可
図録:2,500円
Web:あべのハルカス美術館「コレクター福富太郎の眼」
公式サイト:コレクター福富太郎の眼