展覧会の概要
兵庫陶芸美術館で開催されている「やきものの模様-動植物を中心に-」(会期:2021年12月11日~2022年2月27日)に行ってきました。この展覧会は、やきものに描かれた動植物に注目し、「アート」と「サイエンス」の双方の眼から観察できるように工夫されています。
展覧会の構成
第1章 植物の模様-アートの視点から-
(1)陸(おか)と植物
(2)水と植物
(3)栽培植物
参考出品
第2章 動物の模様-アートの視点から-
(1)陸(おか)といきもの
(2)水といきもの
(3)まだ見ぬいきもの
参考出品
第3章 富本憲吉の植物模様-サイエンスの視点から-
(1)羊歯
(2)梅
(3)柘榴
(4)四弁花
参考出品
感想①「植物編」
動植物の絵が描かれているやきものを目にすることがよくありますが、それらの図柄は大抵、他の絵画などを参考にして制作されていることが多いようです。
この展覧会では、兵庫県立人と自然の博物館の協力のもと、こうして制作されたやきものの絵について、アートの視点とサイエンスの視点から個々に解説がなされているという、ちょっと珍しい展示内容でした。
植物編では、植物を描いたやきものと一緒に、植物の標本も展示されていました。そして、やきものに描かれた植物の詳しい名称なども判明したものについて説明されていました。
普段、何気なく眺めているやきもののに描かれた植物の絵のひとつひとつにも、当然ながら個別の名称があって、それらの存在が共演しているのが本当の自然の姿なんだと、改めて思い知らされました。
(永世舎《色絵秋草図六角花瓶》)
感想②「動物編」
植物編に続いて、動物が描かれたやきものが展示されていました。ここでは、関連する動物の剥製も展示されていて、作品と見比べることができました。
写実的に描かれた作品だけでなく、かなりデフォルメされた作品もありましたが、その解説が秀逸です。その作品名は、丹波《筒描梅鶯図徳利》(江戸時代後期)となっていて、アート的には梅と鶯(うぐいす)を描いた作品だと思われます。
ところが、サイエンスの視点から眺めますと、これは鶯を描いた作品ではなく、メジロを描いた作品だと予想されます。鶯とメジロはよく似ていますので、デフォルメされていると判別はできません。
しかし、描かれた鳥は飛びながら梅の花の蜜を吸っているように見えます。こうした習性を持っているのはメジロになるというわけです。なかなか愉快ですね。
(丹波《筒描梅鶯図徳利》)
感想③「富本憲吉の植物模様」
さらに、この展覧会の目玉企画として、富本憲吉の植物模様に切り込んだ展示がなされていました。富本憲吉が描いている羊歯(しだ)模様は、野生の羊歯をデッサンして生まれたものです。
この羊歯模様に関して、興味をもって調べた羊歯研究者が、その正体が従来考えられていた“ゼンマイ”ではなく、“シシガシラ”であることを突き止めたそうです。
(富本憲吉《色絵金彩羊歯模様大飾壺》)
他にも、梅や柘榴、四弁花を描いた富本憲吉の作品も展示されていて、富本憲吉のデザインの美しさが堪能できる展示内容でした。「模様より模様を造るべからず」と宣言し、模様は自然の注意深い観察から生み出すべきだと主張した彼の真骨頂を垣間見た気がしました。
感想メモ
この展覧会の公式図録(1,500円)も販売されていました。少し小型の図録ですが、写真が大きく掲載されていますので、通常の図録以上に作品の魅力がよく分かり、描かれている動植物の姿もよく分かります。
展示会場で掲示されていた、アートとサイエンスの視点からの解説も記されていて、非常に分かりやすい図録になっています。お勧めですね。
展覧会情報
やきものの模様-動植物を中心に-
会期:2021年12月11日(土)~2022年2月27日(日)
休館日:月曜日、12月31日(金)、1月1日(土・祝) ただし、1月3日(月)、1月10日(月・祝)は開館し、1月4日(火)、1月11日(火)は休館
観覧料:600円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:可能
図録:1,500円
Web:兵庫陶芸美術館「やきものの模様-動植物を中心に-」