展覧会の概要
国立国際美術館で開催されている「感覚の領域 今、「経験する」ということ」(会期:2022年2月8日~5月22日)に行ってきました。
この展覧会では、現代美術の分野で独自の視点と手法によって、実験的な創作活動を展開している7名の美術家の作品が紹介されています。何れの作品も、単なる視覚ではなく、さらにその奥にある感覚を使って味わう作品になっているようです。
展覧会の構成
今村源(いまむら はじめ)
飯川雄大(いいかわ たけひろ)
大岩オスカール(おおいわ おすかーる)
藤原康博(ふじわら やすひろ)
中原浩大(なかはら こうだい)
名和晃平(なわ こうへい)
伊庭靖子(いば やすこ)
感想①「今村源」
今村源さんの《きせい・キノコ-2022》は、もともと宮城県の湖に設置されていた作品で、今回は展示会場の入り口付近の吹き抜け部分に設置されていました。
針金で制作された巨大なキノコや人体状のものなどから構成されています。設置する場所を変えることで、そのイメージや意味も変わってくるようです。それこそが、インスタレーションの魅力でもありますね。
感想②「飯川雄大」
飯川雄大さんの作品の中に、壁に取り付けたハンドルを回すことによって、横にあるリュックサックが持ち上がるというものがありました。鑑賞者が体験するタイプの作品でしょうか。
実際にハンドルを回してみるとリュックが持ち上がりますが、それを下げようと思うと上手くいきませんでした。そこで、椅子に座って休憩しながら、他の方の様子を窺っていますと、二人連れの女性がやってきて、ハンドルを回して限界まで上げたものの下がらなくなって、諦めてその場を去ってしまいました。
その後、やって来たスタッフが両手を使って必死にハンドルを回して下げていました。なるほど、ああすれば良かったのかと思いつつ、これはどういう意味のある作品なのだろうかと考えてしまいました。
感想③「大岩オスカール」
大岩オスカールさんは、世界を旅しながら作品を制作されており、今回はコロナ禍のためニューヨークで隔離生活を送り、その際に制作された作品《旅に出よう》が展示されていました。
入り口で、この作品に関するコメントが書かれた資料が配布されていました。そこには、「隔離生活の真っ只中の、空想の旅を思いついた。その結果がこの日記風の作品で、過去のこと、現在の生活、そして未来について考えたことを綴っている。」と記されていました。
感想④「藤原康博」
藤原康博さんは、見ていて思わず郷愁を感じるような作品を手がけておられます。確かに、どこか懐かしいような感じを受けます。人間が持つ記憶と深い関係のある作品と言えそうです。
人間の心の奥深くには、ユングが集合的無意識と呼んでいた、人類が共通して持っている深い記憶があるようですが、そうしたものを呼び覚まそうとしているのかもしれません。
感想⑤「中原浩大」
中原浩大さんは、カラフルな一色の大きな丸を一つ描いた紙を、色違いで150枚綴じた本を制作されていました。鑑賞者は、その本のページをひたすらめくることで作品を味わうことになります。
私が展示室に入った時には、スタッフらしき人と鑑賞者(?)が協力しながらひたすらページをめくっておられました。色そのものを味わう作品のようで、不思議なリズム感も生まれていました。
感想⑥「名和晃平」
名和晃平さんは、《Dot Array》と《Line Array》と名付けられたUVプリント作品を制作されていました。《Dot Array》では、同じようなパターンが、徐々に大きさを変えながら変化していく様子を表現していました。
そうした変化する様子を眺めることで、不思議な視覚体験を生じさせようとしているようです。そうした意味では、一つ一つの作品を観るのではなく、全体的な流れの中で味わう作品なのでしょう。
感想⑦「伊庭靖子」
伊庭靖子さんの展示は、幻想的な5枚の絵画と映像作品からなっていました。絵画は写真を元に制作されているようですが、不思議な感覚のする作品でした。
一方、映像作品は立体視を通して鑑賞する作品になっていました。目の焦点をずらすことによって立体視が可能になりますが、これは慣れた方でないと難しいかもしれません。
普通に観るとただのノイズ映像のようですが、立体視の要領で映像を観ますと、立体的な奥行きをもった映像が変化している様子が映っていました。ただ、同時に流れているグレーの映像との合体が上手くいきませんでしたので、もう少し観るコツがあるのかもしれません。
感想メモ
オープンしたての大阪中之島美術館の混雑状況と比べて、夢のような快適さで鑑賞できる国立国際美術館でした。現代美術の展覧会は、得てして順路も特に指定されず、どこに何の展示があるかも分からないまま鑑賞するスタイルが多いようですね。油断しますと、見逃してしまう作品すら出てきます。
しかし、こうしたケースで漏れなく鑑賞するのに役立つのが音声ガイドの位置案内図です。音声ガイドの番号に沿って配置図とにらめっこしながら進んでいきますと、何とかキュレーターの意図を汲みながら鑑賞できるように感じました。
美術展情報
感覚の領域 今、「経験する」ということ
会期:2022年2月8日(火)~5月22日(日)
休館日:月曜日(ただし、3月21日(月・祝)、5月2日(月)は開館し、3月22日(火)は休館)
観覧料:1,200円(一般)
音声ガイド:500円(コレクション展と共通)
写真撮影:不可
図録:2022年3月末を予定
Web:国立国際美術館「感覚の領域 今、『経験する』ということ」