展覧会の概要
京都国立近代美術館で開催されている「サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇」(会期:2022年3月23日~5月8日)に行ってきました。この展覧会は、大英博物館、ロンドン大学SOAS、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター、京都国立近代美術が中心となって、京都画檀と大坂画壇の関係を読み解こうとする研究を元に構成された内容になっています。
池大雅、与謝蕪村、円山応挙など、京都画檀の大家の作品と共に、大坂画壇からは、木村蒹葭堂、岡田米山人、西山芳園以外にも、初めて聞くような名前の画家たちの作品が数多く並んでいました。
展覧会の構成
Part.1 京の大家と弟子たち-継承か断絶か?
Part.2 京坂のサロン文化-越境するネットワーク
Part.3 町人たちのアートワールド-大坂画檀の可能性
感想①「与謝蕪村《夜色楼台図》」
Part.1では、与謝蕪村や池大雅、円山応挙、呉春といった名だたる画家たちの作品が展示されていて、最初から、いきなりトップギアに入ったかのような感覚を覚えました。
そんななか、期間限定で公開されていた与謝蕪村の《夜色楼台図》は、圧巻の出来栄えでした。これは雪の京都を描いた作品で、決して写実的ではありませんが、雪山と雪が積もった家々の屋根、そして背景の暗い空が強調された、与謝蕪村らしい情感溢れる作品で、国宝にも指定されています。
感想②「動画での事前学習がお勧め」
Part.2からは、聞き慣れない画家たちの作品が登場し始めます。ここでは、京都と大坂の交流に焦点が当てられているのですが、誰が京都画壇で誰が大坂画壇なのか、その境界がよく分からず混乱してしまいました。
とにかく、画家たちの交流が作品を通して感じ取れる展示内容になっていますが、最低限の基礎知識が無いと深く味わうことなく、何となく眺めて終わってしまうかもしれません。
ただ、この展覧会に関しては、シンポジウム「サロン!京と大坂の絵画-継承か断絶か?」のYouTube動画や担当研究員によるインスタライブのアーカイブが公開されていますので、鑑賞する前に観ておくことをお勧めします。展覧会の主旨がよく分かる良い動画になっています。
さらに、展覧会場で上映されていた映像はYouTubeで公開されていますので、後でゆっくり味わうこともできます。
感想③「西山芳園《虫行列之図》」
Part.3では、大坂画壇の作品を存分に味わえる内容になっていて、新たな学びの機会になりました。
ここで特に印象に残ったのは、鳥羽絵(江戸の漫画)的な作品を描いた耳鳥斎の愉快な作品群と、写実的で優れた技量を持った西山芳園の作品でした。
西山芳園《虫行列之図》は、大名行列の様子を擬人化した虫たちによって描いた楽しい作品で、その精緻な表現に驚くばかりです。特に、蜂たちが蜂の巣を担いで運んでいる様子は実に面白いですね。これは大英博物館所蔵の作品ですが、海外の人たちはどのように感じながらこの作品を眺めているのか気になってしまいました。
感想メモ
鑑賞当日は桜も咲いていて、楽しい美術館巡りの一日となりました。鑑賞者が比較的少なかったこともあり、ゆっくり楽しめた展覧会でした。
(京都市京セラ美術館の敷地からの眺め)
上述のシンポジウム動画などを見ると、展覧会に込められた意味や、そこに潜む面白いテーマが理解できると思います。東京、京都、大坂(大阪)に住む人々の性格や地域性、時代性が、どのように美術史と絡んでいたのを考えるきっかけとなるかもしれませんね。
追記
後期展にも行ってきました。前期の後半のみに展示されていた、円山応挙・与謝蕪村《ちいもはゝも》、墨江武禅《雪景山水図》、菅楯彦《龍頭鷁首図屏風》は残念ながら見ることはできませんでしたが、それでも多数の作品を楽しむことができました。
今回は、京都国立近代美術館が公開している様々な動画で、ある程度勉強してから臨んだので、前回よりは作品の背景がよく分かりました。
岡倉天心の影響、組織化を嫌う大阪人の傾向性、職業画家が少なかったこと、様々な画風に自由に挑戦したことが逆に作家固有のイメージを持たれにくかったことなど、大坂画壇が注目されなかった理由は多々あるようですね。
それでも、当時の画家たちの交流を楽しみ絵画を楽しんでいた様子が、多くの作品を通して窺えました。かつての伊藤若冲のように、大阪から何らかのきっかけで一気に注目される画家が出てくると面白いですね。
美術展情報
サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇
会期:2022年3月23日(水)~5月8日(日)
休館日:月曜日 ただし5月2日(月)は開館
観覧料:1,200円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:不可
図録:3,800円
Web:京都国立近代美術館「サロン!雅と俗」