展覧会の概要
京都市京セラ美術館で開催されている「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」(会期:2022年3月12日~6月5日)に行ってきました。この展覧会は、現代美術におけるセルフポートレートの先駆者・森村泰昌氏(1951-)の秘蔵インスタント写真約800枚を含む、音声や映像作品、作品で使用した衣装などを展示する大規模な個展となっています。
展覧会の構成
M式 写真回廊
声の劇場
夢と記憶の広場
衣装の隠れ家
感想①「会場構成」
この展覧会には、“ワタシの迷宮劇場”というタイトルが付いています。森村氏によると、人間のなかには多種多様な「ワタシ」が存在し、それらがあたかも迷路のように複雑に絡み合っていると言います。この展覧会では、そんな人間(森村泰昌氏)の内的情景が展示空間に反映されています。
尚、今回の会場構成は、京都市京セラ美術館の大規模リニューアルプロジェクトにも関わった建築家・西澤徹夫氏と森村泰昌氏とのコラボレーションから生まれています。
展示室内には、森村氏がこれまでに撮りためた823枚のセルフポートレート写真が、まるで迷路のような壁面にズラッと並んでいます。ひとつひとつはインスタント写真なので小さい作品ばかりですが、それが延々と続きますので、一体どこまで見たかもよくわからなくなります。
(森村泰昌「M式 写真回廊」より)
展示室への出入り口は、全部で5か所あり、どこから入っても良いですし、特に順路があるわけではありません。大量のセルフポートレート写真からなる「M式 写真回廊」に導かれるように、「声の劇場」「夢と記憶の広場」「衣装の隠れ家」といったセクションもあります。
感想②「M式 写真回廊」
セルフポートレート写真をひとつひとつ見ていきますと、どこかで見たことのある森村作品の写真がいくつもありました。京都国立近代美術館で開催されている「2022年度 第1回コレクション展」の「合わせ鏡の対話/不在の間――森村泰昌とドミニク・ゴンザレス=フォルステル」というコーナーに森村氏の作品が展示されていましたが、それと同じ写真もいくつか見かけました。
(森村泰昌「M式 写真回廊」より)
(森村泰昌《私の妹のために/シンディー・シャーマンに捧ぐ》(京都国立近代美術館))
こうした写真のひとつひとつの姿が、森村泰昌氏という「ワタシ」のなかに迷路のようにすべて含まれているというわけですね。ある意味、こうした情景は役者の姿を芸術的に表現したものに近いかもしれません。
役者はテレビや映画、舞台の中で様々な役を演じています。そして、演じている瞬間は、その役者にとってはその姿が本当の姿のように見えます。ベテラン役者になればなるほど様々な役を演じていますので、「ワタシ」の中に多様な個性や姿を持っているように見えます。
或いは、人間の生まれ変わりという観点から考えると全ての人に当てはまるのかもしれません。同じ人間が、異なる時代に異なる性別、異なる姿で何度も生まれ変わって人生を繰り返していると考えますと、これは人間の真相を表現しているのかもしれませんね。
感想③「夢と記憶の広場」
ここでは、森村氏のメイクシーンを収録した映像と、セルフポートレート写真に登場した森村氏の多様なキャラクターらしき姿が映像に収められていました。キャラクターたちが、ロボットのようなぎこちない動きをしているのが印象的でした。
(森村泰昌「夢と記憶の広場」より)
何とも奇妙な世界観ですが、それが「夢と記憶の広場」と名付けられた理由でしょうか。「衣装の隠れ家」では、部屋の中を覗き見できるようになっていて、セルフポートレートで使用された衣装などが観られるようになっていました。
感想メモ
声の劇場《影の顔の声》の鑑賞に際しては、入場後に整理券を受け取って指定時間に指定の集合場所に集まる必要があります。展示会場でいきなり入ることはできませんのでご注意ください。所要時間は、集合時間を含めて約40分となっています。
私が行った時は、特に受付で案内はありませんでしたので、事前に知らなかったら展示室内で初めて知ることになると思います。もし、時間に余裕がありましたら一旦展示室を出て、改めて整理券をもらって鑑賞されると良いと思います。
展覧会情報
森村泰昌:ワタシの迷宮劇場
会期:2022年3月12日(土)~6月5日(日)
休館日:月曜日 ただし、3月21日(月・祝)および、5月2日(月)は開館
観覧料:2,000円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:可能
関連書籍:『森村泰昌:ワタシの迷宮劇場』(会期中の会場特別定価:4,620円/一般価格:6,050円/特装版(限定10セット):330,000円)(PR)
Web:京都市京セラ美術館「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」