展覧会の概要
中之島香雪美術館で開催されている「来迎 たいせつな人との別れのために」(会期:2022年4月9日~5月22日)に行ってきました。この展覧会では、「死後、人はどこに行くのだろうか?」をテーマに、来迎図や浄土図といった浄土信仰関連の美術作品が鑑賞できます。
展覧会の構成
第1章 源信の来迎図
第2章 円陣来迎の系譜
第3章 観音と地蔵の来迎
第4章 浄土を想う
第5章 それぞれの来迎の夢
第6章 たいせつな人との別れのために
感想①「来迎図の種類」
ここでは、『往生要集』で有名な天台宗の学僧・源信にまつわる来迎図と、阿弥陀如来の周りを菩薩たちが取り囲んだ円陣来迎を描いた来迎図が詳しい解説と共に展示されていました。
『往生要集』は、死後、極楽浄土へ往生するための指南書として書かれた書物ですが、源信は自ら阿弥陀来迎図も描いていたようです。つまり、源信にまつわる来迎図というのは、確証はないものの源信作品の写しと考えられているようです。
一方の円陣来迎を描いた来迎図も同じく人気のあったもので、数多くの写しが制作されてきたようです。信仰心の薄い現代人とは異なり、当時の人々は死後の極楽往生を強く願っていた様子がよく分かります。
来迎図自体は、経時変化の影響で全体的に暗い色調で、かなり見にくくなっていましたが、一部、描かれた内容がより鮮明にわかる赤外線写真も展示されていました。
感想②「来迎のレベル」
浄土三部経のひとつ『観無量寿経』のなかで、「九品」往生について説かれています。一口に往生と言っても、生前の行いによって往生にもランクがありますよ、という内容です。
上品上生から始まり、上品中生、上品下生、中品上生、中品中生、中品下生、下品上生、下品中生、下品下生と、全部で9種類の往生があって、それに相応しい来迎や死後の生活があるとされます。実に公平な死生観です。
ここでは、重要文化財である「九品来迎図」が展示されていました。現存するのは、上品上生、上品中・下生、下品中生の三幅のみですが、それらを見ると異なる来迎の様子がよく分かります。
他にも、《二十五菩薩来迎図》や《阿弥陀三尊来迎図》、《帰来迎図》など、様々なパターンの来迎の様子を描いた来迎図を見ることができました。
感想③「反省を迫られる作品」
来迎図以外では、《二河白道図》や《沙門地獄草紙模本》、《矢田地蔵縁起絵巻》といった、見るだけで反省を迫られるような作品もありました。
《二河白道図》では、浄土と現世、そしてその間をつなぐ細い白道とその両側の二河(火河:怒りなどを象徴、水河:執着などを象徴)が一幅の作品の中に描かれています。
さらに、地獄の様子を描いた《沙門地獄草紙模本》《矢田地蔵縁起絵巻》などでは、もはや地上の拷問を遙かに凌駕するすさまじい内容に驚きを禁じ得ません。やはり、私たちは人間として正しい生き方を実践するしかなさそうです。
感想メモ
中之島香雪美術館で開催される展覧会は、いつも満足度が高いように感じます。その理由のひとつに、大型パネルを用いた分かりやすい解説があります。さらに、展覧会のストーリーが上手く出来上がっているところも良いですね。
音声ガイドはありませんが、展示作品数が50点程度とそれほど多くありませんので、逆にじっくり解説を読むだけの精神的な余裕が生まれているように感じます。小さな美術館だからこその利点を最大限に生かした展示内容で、図録もかなり詳しい解説がなされていて見逃せません。
展覧会情報
来迎 たいせつな人との別れのために
会期:2022年4月9日(土)~5月22日(日)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
観覧料:1,000円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:不可
図録:2,200円
Web:中之島香雪美術館「来迎 たいせつな人との別れのために」