展覧会の概要
兵庫県立美術館で開催されている「ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術」(会期:2022年3月26日~5月29日)に行ってきました。この展覧会は、1960年代にアメリカで拡がったミニマル・アートと、それに続くコンセプチュアル・アートの流れを、ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻のコレクションを通して概観するものです。
展覧会の構成
1 工業材料と市販製品 カール・アンドレ /ダン・フレイヴィン
2 規則と連続性 ソル・ルウィット /ベルント&ヒラ・ベッヒャー
3 「絵画」の探究 ロバート・ライマン /ゲルハルト・リヒター /ブリンキー・パレルモ
4 数と時間 ハンネ・ダルボーフェン/ 河原 温
5 場への介入 ダニエル・ビュレン /リチャード・アートシュワーガー
6 枠組みへの問いかけ マルセル・ブロータース /ローター・バウムガルテン
7 歩くこと リチャード・ロング /スタンリー・ブラウン
8 知覚 ヤン・ディベッツ /ブルース・ナウマン
9 芸術と日常 ブルース・ナウマン /ギルバート&ジョージ
感想①「ミニマル・アート」
ミニマル・アート(最小限芸術)というのは、1960年代後半のアメリカでみられた美術のひとつで、それ以前の主観的な抽象表現主義を批判することから生まれ、シンプルな形や色を用いて抽象美術の純粋性を求めた芸術のことです。
この展覧会では、鉛のブロックだけを用いて表現された、カール・アンドレ《雲と結晶》や、白く塗られた木の骨組みのみからなる、ソル・ルウィット《ストラクチャー(正方形として1,2,3,4,5)》などの作品が展示されていました。
また、作家が展示会場に来て、その場で作品を制作して展示するという当時としては珍しかった手法で制作された作品も展示されていました。ここでは、ロバート・ライマンによる、5枚のアルミ版にエナメルを塗っただけのシンプルな作品《無題 #73.312》などがありました。
ミニマル・アートには、余計なものを剥ぎ取ったシンプルだからこその美しさがあるのかもしれません。ただ、心の奥深くからその美しさに感動するような芸術作品とは少し異なるように思いました。
感想②「コンセプチュアル・アート」
続いて、コンセプチュアル・アート(概念芸術・観念芸術)の登場です。こちらは、アイデアやコンセプトが作品の構成要素となる芸術で、1960年代から1970年代にかけて拡がった前衛芸術のひとつです。
ここでは、賃金・給与リストが記載されたハンネ・ダルボーフェンの作品や、自分の起床時間を絵はがきにゴム印で押して送った河原温の作品など、視覚的な“美”とは無縁とも思える作品が続きます。
これらの作品を観ていますと、私たちの周りにある全てのものが芸術の対象となりそうな気がしてきます。こうした作品を楽しむには、視覚ではなく思考的な直感を通して内在する美を感じることが必要なのでしょうか? 視覚的に美しいというわけでもない作品群を観ていて、不思議な感覚に襲われました。
感想③「フィッシャー・ギャラリー」
この展覧会は、ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻がデュッセルドルフで開いていたフィッシャー・ギャラリーの回顧展のような内容でもあります。フィッシャー・ギャラリーから、各々の作家に送られた招待状から始まり、その手紙のやり取りや、ギャラリーでの展示風景の写真なども紹介されていました。
こうした作家たちとのやり取りを通して、主観性を排した芸術作品とは別に、そこに人間性が垣間見えるところが何とも面白いですね。私はむしろこういう人間的な部分にこそ芸術性を感じてしまいます。
感想メモ
政治の世界では、右から左へ、そしてまた右といった具合に振り子のように左右に振れることが多いですが、これは芸術の世界でも同じようですね。以前の芸術を批判するところから新しい芸術が生まれ、また原点回帰したりもします。
ヘーゲルが言う弁証法的な発展であれば良いのですが、それが単なる迷路に迷い込んでいるだけということのないことを祈るばかりです。
展覧会情報
ミニマル/コンセプチュアル
会期:2022年3月26日(土)~5月29日(日)
休館日:月曜日
観覧料:1,600円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:不可
図録:特別価格3,500円(通常価格4,500円)
Web:兵庫県立美術館「ミニマル/コンセプチュアル」