展覧会の概要
姫路市立美術館で開催されている「野田弘志 真理のリアリズム」(会期:2022年7月2日~9月4日)に行ってきました。この展覧会は、現代日本を代表するリアリズム(写実主義)画家・野田弘志(1936-)さんの画業の全容を俯瞰できる内容になっています。
展覧会の構成
第1章 黎明 ―学生からイラストレーター時代―
第2章 写実の起点と静物画 ―黒の時代/金の時代―
第3章 挿画芸術 ―新聞連載小説『湿原』―
第4章 風景を描く―自然への憧憬―
第5章 生と死を描く―TOKIJIKUシリーズ/THEシリーズ―
第6章 存在の崇高を描く―聖なるものシリーズ/崇高なるものシリーズ―
感想①「黒の時代と金の時代」
写実絵画の世界に入る前の初期作品に抽象画《白い風景》がありましたが、もし抽象画の世界に進まれていたとしても一流の画家になられていた、と思わせられる完成度でした。
その後、イラストレーター時代を経て、写実絵画の世界に足を踏み入られることになります。会場では、《アーティチョーク》や《やませみ》、《石榴》といった、黒を背景とした見事な写実作品が展示されていました。ここでは、細密に描かれた静物が漆黒を背景とすることで神秘性が加わり、思わず作品の世界に引き込まれそうになってしまいます。
80年代に入りますと、白や金地の明るい背景の静物画も描かれることになりますが、個人的には漆黒の神秘性を超えることは難しいように感じました。漆黒に対抗するには、徹底したリアリズム背景しかないのかもしれません。
感想②「挿画芸術」
野田弘志さんの出世作となったのが、加賀乙彦の朝日新聞連載小説『湿原』の挿画でした。今では、その原画も散逸してしまい所在が分からなくなっているものが多いようですが、今回の展示では約150点が展示されています。
これらの細密挿画が注目されたのも当然かもしれません。挿画は、連載小説のシーンを連想させる補助的な役割というより、小説と同時並行で進展する連載挿画というような内容でした。各々の挿画がひとつの写実作品となっています。
感想③「生と死」
野田弘志さんにとって、「生と死」が生涯の大きな作品テーマとなっています。化石や頭蓋骨、骨、胎児の標本、卵、裸婦など、生と死の対比というより、死を見据えた生命という観点から作品が描かれているようです。
一方で、「崇高なるもの」シリーズで描かれた、等身大に近い肖像画を見ていますと、野田弘志さんが追求した、「事実ではなく、真理を見つめるために私は絵を描いている」という言葉の意味が分かる様な気がします。
目に映った事実を正確に写し取るだけではなく、心を含めた対象そのものをその作品の中に移転させようとしている様子が窺えます。突然、作品の中の人物が鑑賞者に語りかけてきても、何ら不思議なことではないような気がしてしまいます。
感想メモ
以前から、ホキ美術館のコレクションに代表される写実主義絵画にも興味を持っていましたので、とても意義のある展覧会でした。写真技術の優れた現代において、敢えてリアリズム絵画に取り組む目的が少し見えてきたように思います。
この展覧会は巡回展で、山口県立美術館(2022年4月27~6月19日)、姫路市立美術館(2022年7月2日~9月4日)、奈良県立美術館(2022年9月17日~11月6日)、札幌芸術の森美術館(2022年11月19日~2023年1月15日)の予定となっています。お近くの方は是非どうぞ。
展覧会情報
野田弘志 真理のリアリズム
会期:2022年7月2日(土曜日)~ 9月4日(日曜日)
休館日:月曜日(但し7月18日は開館)、7月19日(火曜日)
観覧料:1,200円(一般)
音声ガイド:なし
写真撮影:不可
図録:2,800円
Web:姫路市立美術館「野田弘志 真理のリアリズム」