【感想】「よみがえる川崎美術館―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―」(神戸市立博物館、会期:2022/10/15~12/4)レビュー

展覧会の概要

神戸市立博物館で開催されている「よみがえる川崎美術館―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―」(会期:2022年10月15日~12月4日)に行ってきました。この展覧会は、明治23年(1890)9月6日、神戸市布引の川崎邸(現在のJR新神戸駅周辺)に開館した、日本初の私立美術館「川崎美術館」をよみがえらせた内容となっています。

神戸市立博物館「よみがえる川崎美術館―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―」神戸市立博物館「よみがえる川崎美術館―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―」

 

展覧会の構成

第一章 実業家・川崎正蔵と神戸
第二章 収集家・川崎正蔵とコレクション
第三章 よみがえる川崎美術館
第四章 美術とともに
第五章 川崎正蔵が蒔いた種─コレクター、コレクション、美術館

 

感想①「円山応挙の襖絵」

川崎美術館は、瓦葺二階建の建物で、玄関には伊藤博文が揮毫した「川崎美術館」という扁額が掲げられていました。展覧会場では、当時の川崎美術館の1階「上之間」「広間」「三之間」の様子を再現する試みがありました。

 

当時は、円山応挙の襖絵がぐるりと部屋の周囲を取り囲み、その前でさまざまな美術品が展示されていたようです。『陳列品目録』を参考に、第八回、第十二回の「三之間」展示の一部が再現されていました。実に、約100年の歳月を経て川崎美術館がよみがえったことになりますね。

 

展示作品を観ていますと、実に味わいのある渋い作品が収集されていたことが分かります。白い毛並みに、黒い尻尾と額の大きな黒斑が印象的な宣宗(明の第五代皇帝)筆《麝香猫図》は、霊妙さを感じさせる不思議な作品でした。

 

感想②「名誉の屏風」

川崎正蔵は、収集した美術品をしばしば皇室に献上していました。そして、明治天皇の神戸行幸の際には、川崎正蔵の収集品が御用立てられたそうです。

 

そうした中で、明治天皇がご覧になった屏風として、当時の新聞が「名誉の屏風」と称賛した、現存する三双の屏風が展覧会場に鎮座していました。

 

狩野隆信筆《牧馬図屏風》、伝狩野隆信筆《桐鳳凰図屏風》、狩野探幽筆《桐鳳凰図屏風》の三双の金屏風は、躍動感溢れる馬や伝説の鳥・鳳凰を描いた鮮やかな作品で、実に見応えがありました。

 

感想③「栄枯盛衰」

1912年に川崎正蔵が逝去し、1927年の金融恐慌を経て、いよいよ川崎美術館が所蔵していた美術品の売立てが実施されました。こうして国内外に、川崎正蔵が収集していた作品が受け継がれていき、現在約200点が現存しているといいます。

 

今回の展覧会は、こうした作品が集められ一堂に会した貴重な展示内容になっていました。廃仏毀釈や西洋文化の流入による古美術品の散逸を防ぐために奮闘した、川崎正蔵の熱い情熱が伝わってきました。

 

一方、川崎美術館や長春閣の建物自体は、阪神大水害や神戸大空襲でその姿を消すことになります。現在、その概観は写真でのみ知ることができます。まさに、時代の栄枯盛衰を映し出した美術館でした。

 

感想メモ

この展覧会は、日本美術を護ろうとした川崎正蔵の心意気が伝わってくる、通常の展覧会とは異なる視点からアプローチされた熱い内容になっていました。日本初の私立美術館が神戸の地で生まれていたんですね。小林一三との関係など、日本実業界の重鎮たちがおりなす人間模様にも思わず拍手したくなってしまいました。

 

展覧会情報

よみがえる川崎美術館

会場:神戸市立博物館
会期:2022年10月15日(土)~12月4日(日)
休館日:月曜日
観覧料:1,600円(一般)
音声ガイド:600円(俳優:新納慎也、恒松あゆみ)
写真撮影:不可
図録:2,800円
Web:神戸市立博物館「よみがえる川崎美術館」
公式サイト:よみがえる川崎美術館
2022年12月08日|ブログのカテゴリー:2022年投稿, 展覧会レビュー