【感想】「奇蹟の芸術都市バルセロナ展 カタルーニャ近代芸術の精華」(姫路市立美術館、2019/6/29~9/1)レビュー

姫路市立美術館で開催されている「奇蹟の芸術都市バルセロナ展 カタルーニャ近代芸術の精華」(会期:2019年6月29日~9月1日)に行ってきました。この展覧会は巡回展で、長崎県美術館、姫路市立美術館、札幌芸術の森美術館、静岡市美術館、東京ステーションギャラリーと全国を回る予定です。

姫路市立美術館「奇蹟の芸術都市バルセロナ展 カタルーニャ近代芸術の精華」

 

展覧会の構成は、全部で5章からなります。

 

第1章:都市の拡張とバルセロナ万博
第2章:コスモポリスの光と影
第3章:パリへの憧憬とムダルニズマ
第4章:「四匹の猫」
第5章:ノウサンティズマ―地中海へのまさざし
第6章:前衛美術の勃興、そして内戦へ

 

この展覧会は解説パネルの文字数が多く、全部を読みこなしつつ鑑賞するとなると、かなり時間を要すると思われる内容でした。最初は全部読もうとチャンレンジしてみたものの、途中から諦めて図録で後からフォローすることにしました。

 

音声ガイドは600円で貸し出されていたので、それも利用しましたが、展覧会の全体像を把握するのは意外と難しかったです。というのも、今回の展覧会では、スペインの歴史をある程度知っていないと理解しにくい部分があり、歴史の教養が必要とされる展覧会という印象でした。

 

勿論、そうした歴史的な部分はとりあえず置いといて、作品に集中するという鑑賞方法もありますが、どうせならこれを機にバルセロナ芸術について学びたいと気持ちは捨てきれませんでした。

 

鑑賞前の予想では、第6章のミロやダリ、ピカソの作品がこの展覧会の目玉だと思っていましたが、意外なことに、そうした著名な作家の作品より、前半に登場するあまり名前を聞いたことのない作家たちの作品に目を奪われ、心を奪われるという結果になりました。こうした予想外の作品との出会いというのは、美術鑑賞の醍醐味でもありますね。

 

第1章では、バルセロナが近代都市として大きく発展することになった、19世紀中頃以降の絵画や彫刻が展示されています。ここでは、モデスト・ウルジェイの《共同墓地のある風景》や展覧会チラシに採用されたフランセスク・マスリエラの《1882年の冬》、ジュアン・プラネッリャの《職工の娘》など、写実的でメッセージ性の強い作品に圧倒されました。

 

第2章では、近代カタルーニャを代表する建築家ドュメナク・イ・タネー、アントニ・ガウディ、プッチ・イ・カダファルクの3名が「不和の街区」で手掛けた建築物の設計図や映像が紹介されています。互いに競い合うかのように制作された建築は見事でした。他にも、宝飾品や家具、調度品が展示されています。ここでは、ルマー・リベラの《夜会のあとで》や《休息》など、華やかな生活の中で一息ついている女性の姿が美しく描かれていました。

 

第3章では、世紀末においてカタルーニャ芸術に大きな影響を与えた画家ラモン・カザスやサンティアゴ・ルシニョルの作品が並び、特にルシニョルの《モルヒネ中毒の女》という作品は、儚い女性の姿と苦しみが画面から伝わってくる見事な作品でした。また、カトリック信仰に基づく芸術団体「サン・リュック美術協会」で中心的な役割を果たしたリモーナ兄弟による絵画と彫刻が2点展示されていましたが、美しく崇高さの感じられる作品でした。

 

第4章では、芸術家たちの交流の場となっていたカフェ・レストラン「四匹の猫」に関係する作品が展示されています。若き日のピカソも通っており、カザスやルシニョル、ウトリリョ、ヌネイ、カナルスといったムダルニズマ芸術の画家たちと交流を深めたピカソも様々な作品を残しています。そして、ピカソはここで初の個展も開いています。

 

第5章では、パリの影響を受けたムダルニズマ芸術を批判的に継承したノウサンティズマの作家たちが紹介されています。ここでは、ラモン・カザスの《アウジェニ・ドルスの肖像》という鉛筆と木炭によるデッサンが展示されていましたが、流石としか言いようのない出来栄えでした。

 

最後の第6章では、いよいよジュアン・ミロやサルバドール・ダリ、パブロ・ピカソの作品がお目見えです。ここでは、スペインの美術館以外に、国内からも作品が取り寄せられて展示されていました。ミロに関しては、初期の作品や陶磁の大壺も展示されています。ダリの作品では、女性の顔が消された《裸婦》がある意味でダリらしくて印象に残りました。またダリの《幽霊と幻影》という作品もなかなか含蓄のある絵画になっています。ピカソに関しては、銅版画の《泣く女》や《ミノタウロマキア》が展示されていました。

 

今回の展覧会では、カタルーニャの州都バルセロナで芽吹いた建築や絵画といった芸術が、複雑な時代背景をもとに様々に展開し、発展していく様子が伺えるように工夫されていました。鑑賞者の教養が深まれば深まるほど、その魅力はさらに深化するだろうと予想されます。美術鑑賞の奥深さを感じされてくれる展覧会でした。

 

2019年08月09日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー