【感想】「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで」(大阪市立美術館、2019/8/10~9/29)レビュー

大阪市立美術館で開催されている「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで」(会期:2019年8月10日~9月29日)に行ってきました。平日の開館直後に入館しましたが、それなりに鑑賞者も多く特に年配の方が多い印象でした。浮世絵というのは江戸時代の風俗画のことですが、やはり年配者を中心に根強い人気なんだと再確認しました。

大阪市立美術館「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで」大阪市立美術館「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで」

 

今回の展覧会では、海外の浮世絵コレクターとして有名なアメリカ人女性メアリー・エインズワース(1867-1950)の1,500点以上にも及ぶ浮世絵コレクションの中から、選りすぐりの200点が日本に里帰りしています。1906年の日本旅行を契機に浮世絵の魅力を知ったメアリー・エインズワースは、その後も継続的に浮世絵の収集を続け、今日のコレクションを形成しています。

 

今回の「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」では、初期の浮世絵から葛飾北斎や歌川広重といった超メジャーな作品まで、浮世絵の世界を網羅的に鑑賞できる内容になっています。展覧会は以下の全5章から構成されています。

 

第1章:浮世絵の黎明 墨摺絵からの展開
第2章:色彩を求めて 紅摺絵から錦絵の時代へ
第3章:錦絵の興隆 黄金期の華 清長から歌麿へ
第4章:風景画時代の到来 北斎と国芳
第5章:エインズワースの愛した広重

 

第1章のタイトルにある墨摺絵というのは、墨一色で摺った版画のことで、ここでは菱川師宣や鳥居清倍、奥村政信、懐月堂度繁などの作品が楽しめます。そして、こうした墨摺絵はやがて筆で彩色された作品へと発展していきます。

 

第2章では、墨の輪郭線に紅や緑を使った2、3色摺りの作品が登場します。当時は紅絵と呼ばれていたそうですが、現在は紅摺絵と呼ばれています。ここでは、石川豊信、西村重長、奥村政信、鳥居清広、鳥居清満、鈴木春信、北尾重政、鳥居清長などの作品が楽しめます。さらに、水絵と呼ばれる作品も鑑賞できます。これは墨の輪郭線を使わずに色版だけで摺った版画のことを指します。世界で1点しか確認されていないという、鈴木春信の「柿本人麻呂」という貴重な作品も展示されていました。

 

第3章では、多色刷りを用いた本格的な木版画である錦絵が登場します。これこそが浮世絵の醍醐味といった感じで、北尾重政や鳥居清長、勝川春章、鳥文斎栄之、喜多川歌麿、歌川豊国といった有名な絵師の美人画や役者絵が堪能できます。

 

第4章では、これまでの美人画や役者絵に加えて風景画が登場します。風景画と言えば、先ずは葛飾北斎の「富獄三十六景」シリーズが有名でしょう。今回の展覧会では「富獄三十六景」シリーズ以外に、諸国の有名な橋を描いた「諸国名橋奇覧」シリーズ、「琉球八景」シリーズ、「詩哥写真鏡」シリーズも展示されています。他に、歌川国芳の作品も展示されており、国芳独自の視点から描かれた味のある風景画も楽しめます。

 

最後の第5章では、歌川広重の作品が登場します。実は、メアリー・エインズワースの浮世絵コレクションの過半を占めているのが、この歌川広重の作品なのです。歌川広重と言えば「東海道五拾三次之内」シリーズが有名ですが、例えば同じ「東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景」であっても、後刷りや変わり図が存在します。

 

今回は「東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景」に関しては3点が展示されており、その違いが見事に分かります。通称「赤富士」に代表されるような葛飾北斎の斬新な風景画とは異なり、歌川広重の風景画には人間の情感が見事なまでに描き込められています。絵師によって、ここまで表現が異なるのかと感嘆せざるを得ません。

 

今回の展覧会では、200点にも及ぶ作品が展示されており、さらにそれぞれの作品に解説パネルが設置されているので、ひとつひとつの解説を丁寧に読んでいると、かなりの時間を要します。これは展覧会あるあるですが、前半の展示作品に時間をかけすぎて、後半の重要な作品を鑑賞する前に疲れてしまうということがないよう、計画的に鑑賞しましょう。

 

もし、図録の購入を考えておられるなら、解説パネルを読むのはほどほどにして、じっくりと作品自体を味わうのも一つの方法です。図録(2,500円)はハードカバーの立派な装丁で、当然ながら解説も詳しく書かれているので、解説を読むのは帰宅後の楽しみに取っておくという選択肢もあるかと思います。

2019年09月01日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー