【感想】「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」(あべのハルカス美術館、2019/7/13~9/23)レビュー

あべのハルカス美術館(大阪)で開催されている「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」(会期:2019年7月13日~9月23日)に行ってきました。あべのハルカス美術館では、今回の「ギュスターヴ・モロー展」に続き、「ラファエル前派の軌跡展」「カラヴァッジョ展」と西洋絵画展が続けて開催される予定なので、西洋絵画ファンにとっては楽しみな期間となりそうです。

あべのハルカス美術館「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」

 

ギュスターヴ・モローは、19世紀末フランスの象徴主義を代表する画家で、神話や聖書をテーマにした作品を多く手掛けています。目に見える世界を写実的に描こうとした印象派への反発という意味合いも込めて、象徴主義の作家たちは目に見えない精神的な世界を象徴的に描こうと試みました。

 

なかでもモローは、「サロメと宿命の女たち」という展覧会の副題にあるように、世紀末ファム・ファタル(宿命の女)のイメージ形成に大きな役割を果たしています。展覧会の構成は以下のとおりです。

 

Ⅰ モローが愛した女たち
Ⅱ 《出現》とサロメ
Ⅲ 宿命の女たち
Ⅳ 《一角獣》と純潔の乙女

 

モローの人生で強い影響を与えた女性が二人いました。ひとりは母親のポーリーヌ・モローで、もうひとりはアレクサンドリーヌ・デュルーです。母親に対しては「この世で最も大切な存在」と表現し、アレクサンドリーヌに対しては、約30年にわたって愛情を注ぎ続けてきました。展覧会では、この二人に焦点を当てた第1章から始まります。

 

愛する二人の女性に先立たれたモローが描いた《パルクと死の天使》という作品では、馬にまたがった冥府に属する運命の女神が剣をかざした姿が、激烈な印象を伴って観るものに迫ってきます。

 

第2章では、サロメに関する作品が次々と登場します。圧巻は、今回の展覧会の目玉作品でもある《出現》です。そこでは、血を流しながら空中に浮かぶヨハネの首をサロメが指差し、二人が見つめ合うという不気味な緊張感が漂っています。これは、斬首されたサロメの姿をサロメが幻視している様子を描いているようです。

 

第3章では、サロメ以外のファム・ファタルを描いた作品が続々と登場します。ヘレネ、デリラ、メッサリーナ、オンファレ、メデイア、セイレーン、スフィンクス、エウロペ、レダ、セメレ、デイアネイラ、バテシバ、ガラテイア、クレオパトラ、サッフォー、エヴァといった女性たちが、モローの手によって魅惑的に描かれています。

 

モローが、《キマイラ》という作品の註に残した「女というのは、その本質において、未知と神秘に夢中で、背徳的悪魔的な誘惑の姿をまとってあらわれる悪に心を奪われる無意識的存在なのである」という言葉を証明するかのような展示内容になっています。

 

最後の章では、純潔の象徴でもある一角獣と女性が戯れる姿をが描いた作品が登場します。モローの代表作《一角獣》も展示されており、展覧会のクライマックスに相応しい雰囲気を漂わせていました。他にも、《神秘の花》に関する水彩の習作も展示されていました。

 

今回の展覧会は、改めてファム・ファタルについて考えさせられる興味深い内容でした。生涯を独身で通したモローという神秘的な画家の内面にも切り込んだ、わかりやすい展示構成になっていました。

2019年09月09日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー