【感想】「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」(伊丹市立美術館・伊丹市立工芸センター、2019/9/7~10/20)レビュー

伊丹市立美術館と伊丹市立工芸センターで開催されている「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」(会期:2019年9月7日~10月20日)に行ってきました。ルート・ブリュック(1916-1999)は、フィンランドを代表するセラミック・アーティストで、名窯アラビアの専属アーティストとして約50年にわたって活躍しています。今回の展覧会では、彼女の1930年代から1980年代にかけての生涯にわたる作品が展示されています。尚、今回の展覧会は伊丹市立美術館だけでなく、隣接する伊丹市立工芸センターのスペースも使っての展示となっていました。

 

◆1階連絡通路から観た庭園

 

展覧会は下記の5章から構成されています。

第1会場(伊丹市立美術館2F)
Ⅰ.夢と記憶
Ⅱ.色彩の魔術

第2会場(伊丹市立美術館B1F)
Ⅲ.空間へ
Ⅳ.偉業をなすものも小さな一歩から

第3会場(伊丹市立工芸センター)
Ⅴ.光のハーモニー

 

第1章では、ルート・ブリュックがグラフィック・アーティストとして仕事をしていた時代の水彩や版画、絵付けした器などが展示されていました。《ポストカードのスケッチ》シリーズを始めとする水彩では、素朴なタッチで天使や花などが描かれており、彼女の作品の源流を見る気がします。アラビア製陶所に入り、他の職人の作った皿などに絵付けをした作品も展示されていましたが、その純朴で単純化された人間や動物、草花の表現は見事です。

 

第2章では、鋳込み成形と呼ばれる方法で制作された、美しい陶板作品が並んでいました。実物を観たときに感じる得も言われぬ色彩の輝きは、残念ながら写真では十分に伝わらないようです。単純化されたフォルムと奥深い色彩、敬虔な信仰心が見事に融合した作品が目白押しでした。ちなみに、第1会場(第1章、第2章)のみ写真撮影が許可されていました。

 

◆ルート・ブリュック《魚の皿》

 

◆ルート・ブリュック《ライオンに化けたロバ》

 

第3章では、今回の展覧会のタイトルでもある「蝶」を扱った作品が登場します。ルート・ブリュックの父親が蝶の研究者だったことが彼女に大きな影響を及ぼしたようです。《蝶の研究者》という作品には、父フェリクスが描かれていますが、そこに登場する蝶たちには標本用のピンが刺さっているのが印象的です。

 

第4章では、ブリュックが晩年に取り組んだ、さまざまなサイズのタイルを組み合わせた作品が登場します。釉薬で色付けされたタイルを組み合わせた作品は、まさに陶磁を使った抽象世界です。

 

第5章では、ルート・ブリュックが到達した、タイルを使った抽象作品の到達地点となる作品が展示されていました。《泥炭地の湖》や《水辺の摩天楼》、《木》などは、くすんだ黒いタイルをベースに、その中に赤や青、白のタイルが幻想的にはめ込まれています。そして、最終的には、色彩や形をも削ぎ落とした光と影を追求したような作品へと昇華しているようです。

 

ルート・ブリュックという作家の生涯作品を眺めてみると、一人の芸術家の作品の変遷がよくわかります。素朴なフォルムと色彩の美しさが特徴だった作品から、タイルを組み合わせた抽象的な作品へと進み、さらに、余計な表現を抑えた晩年の作品へと導かれる様子は、人間の一生の変遷とも似ているようにも思えます。その時代にしか表現できない美があるのかもしれません。

<公式図録>

日本初の大規模展「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」の公式図録です。1940年代から80年代にかけての約200点の作品図版を通じ、愛らしい描写、重厚かつエレガントな釉薬の輝き、独自の自然観が生み出す繊細な図や形を紹介。(アマゾンの内容紹介より)



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2019年10月02日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー