【感想】「西洋近代美術にみる 神話の世界」(美術館「えき」KYOTO、2019/10/18~11/17)レビュー

美術館「えき」KYOTOで開催されている「西洋近代美術にみる 神話の世界」(会期:2019年10月18日~11月17日)に行ってきました。今回の展覧会では、ギリシャ・ローマ神話や古典古代を主題とした作品を生み出した、18世紀半ばから20世紀にかけての作家を取り上げて紹介しています。

美術館「えき」KYOTO「西洋近代美術にみる 神話の世界」

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

序章 古なるものへの憧れ
第Ⅰ章 甘美なる美の古代
第Ⅱ章 伝統から幻想へ
第Ⅲ章 楽園の記憶
第Ⅳ章 象徴と精神世界

 

序章では、18世紀後半から始まる新古典主義美術の流れに大きな影響を及ぼした、ジョヴァンニ=バッティスタ・ピラネージの作品が紹介されています。考古学者でもあったピラネージのデッサン力と想像力を存分に発揮した版画集『ローマの古代遺跡』は、人々に古代ローマへのロマンを激しく燃え立たせたと言います。

 

第Ⅰ章では、イギリスの新古典主義を代表するジョン・フラクスマンによる、ホメロスの『イリアス』や『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などへの挿絵が展示されています。ここでは、フレデリック・レイトンの《月桂樹を編む》、ローレンス・アルマ=タデマの《お気に入りの詩人》、エドワード・ジョン・ポインターの《世界の若かりし頃》など、魅力的な作品が並んでおり、古典古代と近代とが交錯する様子にも注目です。

 

第Ⅱ章では、伝統的な神話に登場するニンフが人間の裸婦像と混交していく様子や、古代ギリシャの文芸の女神であるムーサが、芸術家たちにインスピレーションを与える女性ミューズへと、その意味を変えていく様子が絵画を通して確認できます。

 

ここでは、ナルシス=ヴィルジル・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ《クピドから矢をとりあげるヴィーナス》、ジャン・フランソワ・ミレー《眠れるニンフとサテュロス》、アレクサンドル・カバネル《狩りの女神ディアナ》、ジャン=ジャック・エンネル《アンドロメダ》といった、美しいニンフ&女性の裸体を描いた作品群が圧巻でした。個人的には、エンネルの《アンドロメダ》やアンリ・ファンタン・ラトゥールの《オンディーヌ》の哀感を伴った作品に心惹かれました。

 

第Ⅲ章では、一見、神話の世界とは無関係のように見える、ルノワールの《水の中の裸婦》や《泉(横たわる裸婦)》が展示されていましたが、ここにもニンフやヴィーナスが深く影響していると言います。この章は、古から人々が愛してやまない田園詩がテーマで、ラウル・デュフィやマリー・ローランサンの作品を通して、神話の世界の牧歌的な様子が鑑賞できます。尚、図録にはマルク・シャガールの《ダフニスとクロエ》シリーズのリトグラフが掲載されていますが、京都会場では展示されていませんでした。

 

最後の第Ⅳ章では、第一次世界大戦後の不安定な時代の中で、美術は古典への回帰が見られ、その魁となったジョルジオ・デ・キリコや、ダダイズム運動に参加したフランソワ・ピカビアの作品が展示されていました。そして、自らの獣性をミノタウルスとして象徴的に表現したピカソの版画が登場します。そして、展覧会の最後はマッタの版画シリーズ『ホメロス』で幕を閉じることになります。

 

今回の「神話の世界」をテーマにした展覧会を通して、改めてルネサンス期から現代に至るまで、連綿とその古典古代の精神がさまざまな形に変容しながら受け継がれていることがわかります。それだけ、心の奥深くに郷愁をもたらす世界共通のテーマでもあるということなのでしょう。

 

この展覧会は、今後、群馬県立近代美術館(2020年2月8日~3月22日)、岡崎市美術博物館(2020年4月4日~5月17日)、高知県立美術館(2020年5月30日~7月12日)へと巡回する予定です。お近くの方は、是非、どうぞ。

2019年11月10日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー