【感想】「驚異と怪異――想像界の生きものたち」(国立民族学博物館、2019/8/29~11/26)レビュー

国立民族学博物館で開催されている特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」(会期:2019年8月29日~11月26日)に行ってきました。国立民族学博物館は、太陽の塔で有名な大阪万博記念公園内にある博物館で、平日にも関わらず入館者で賑わっていました。今回の展覧会は通常の美術展とは異なる、オカルト寄りの博物展となります。

太陽の塔国立民族学博物館「驚異と怪異――想像界の生きものたち」国立民族学博物館「驚異と怪異――想像界の生きものたち」

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

イントロダクション
第一部:想像界の生物相
・水
・天
・地
・驚異の部屋の奥へ

第二部:想像界の変相
・聞く
・見る
・知る
・創る

 

「第一部:想像界の生物相」では、想像界の「生態系」を水、天、地のセクションに分けて紹介しています。水のセクションでは、世界各地の人魚や龍、水怪をテーマにした仮面や木彫、木版画、人形、石像などが展示されていました。このように地域限定ではなく、世界各地で同じような生物をテーマにした存在が想定されているとなると、人魚や龍などは単なる想像上の生き物ではなく、その原型が地上、あるいはあの世、霊界と呼ばれる世界に存在していた、あるいは存在していると考えた方が自然のように思われます。

 

天のセクションでは、天象、霊鳥・怪鳥・鳥人、天馬に関する護符や仮面、人形、凧、ガラス絵などが展示されていました。天狗が天象(天文・気象現象)のジャンルで紹介されていたのが意外でしたが、空を飛ぶ存在は、天使や悪魔、ペガサスなど絵画でもよく出て来るテーマなので、絵画ファンにはお馴染みでしょう。シャガールの作品では、羽がなくても空を飛んでいます。

 

地のセクションでは、有角人、巨人、変身獣、霊獣・怪獣、蟲(むし)、人間植物が紹介されていました。ここでは、普段あまり見かけないような存在が目白押しでした。悪魔仮面に見られる有角人や、日本の巨人伝説やごろどんに関する展示もありました。変身獣は人間とさまざまな動物との混交で、蟲は人間と蛇や昆虫などとの混交を示しています。一風変わった人間植物の紹介もありました。

 

第一部の最後は、「驚異の部屋の奥へ」ということで、ここでは、ライデン国立民族学博物館に所蔵されている日本由来のミイラが展示されていました。これらのミイラは、長崎出島のオランダ商館にいたシーボルトやブロムホフ、フィッセルたちが収集したものです。しかし、これらのミイラは実在した生物のミイラではなく、見世物や厄除けとして人気のあった人魚や鬼、龍などの精巧な作り物だったようです。

 

「第二部:想像界の変相」では、未知なる世界の驚異や怪異が、どのように認識され、知識体系に整理され、創作のインスピレーションとなってきたかを探る試みがなされています。ここでは、「聞く」「見る」「知る」「創る」という4つのセクションから構成されています。

 

「聞く」セクションでは、最初に暗室の中で映し出される文字を見ながら、怪しげな音声を聞きます。そして、その音声を聞きながらさまざまな想像を巡らすことで、驚異や怪異を生み出す経験をします。その後、ここで流れた音声が何を収録したものかという種明かし映像が別室で公開されます。

 

次に、「見る」セクションでは、描かれた驚異譚や怪異譚として、ジョン・マンデヴィルの『東方旅行記』や日本の『太平記絵詞』などが紹介されていました。他にも、幻獣観察ノートや諸国見聞録、予言獣、ブラジルの紐の文学などが展示され、さらに、幻獣が観光化され、商品化される様子も紹介されていました。

 

「知る」セクションでは、怪物の地理学としての世界地図や驚異の知識体系をまとめた博物誌、怪異の知識体系をまとめた絵巻などが紹介されていました。私が行ったときは、会期中最後の2週間程度だけ公開予定だった、毛利梅園の『梅園魚譜』の人魚も観ることができました。

 

最後は、「創る」セクションで、アートやマンガ、ゲームの世界で登場する幻獣表象がテーマになっています。ここでは、五十嵐大介、アミーン・ハサンザーデ=シャリーフ、ヤン・シュヴァンクマイエル、江本創、パブロ・アマリンゴの作品が展示されていました。また、ロールプレイングゲーム「ファイナルファンタジーXV」に登場するキャラクターが生み出される様子も紹介され、実際のゲーム映像も流れていました。

 

今回は、博物館が開催する展覧会ということで、従来の美術館での展覧会とは価値観が異なり、若干違和感を感じることになりました。この違和感はどこから来るのかな、と考えていましたが、その根本的な理由は「美」を求めるか求めないかの違いではないかと思い至りました。

 

博物館の展覧会では、その歴史的な価値や学術的な価値が最大限考慮されますが、展示物に美的観点は特に考慮されていません。勿論、結果的に美しい展示物もありますが、それが全てではありません。一方、美術館が開催する展覧会では「美」が最大限に考慮されます。そして、鑑賞者はその美的感覚に感応し感動することになります。このあたりが、違和感の原因だったのではないかと思います。

 

ただし、今回の「驚異と怪異」展では、展示レイアウトが迷宮をイメージしたような構成になっていて、床に貼られた足跡を辿りながら閲覧していくスタイルなど、随所に面白い工夫がなされていました。美術館としても参考になるところがあるように感じました。

 

この展覧会の会期はもう残り少ないですが、図録が充実しているので、鑑賞できない方は図録を眺めるだけでもかなり得るところは多いと思います。通販でも販売されていますので、こうした分野に興味のある方にはおすすめの図録になっています。

<公式図録>

なぜ人類は、この世のキワにいるかもしれない不思議な生きものを思い描き、形にしてきたのか?奇妙で怪しい、不気味だけどかわいい、クリーチャーたちが大集合!現代のクリエイターたちの作品も紹介し、妖怪やモンスターの源泉にある想像と創造の力を探ります。(「BOOK」データベースより)



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2019年11月15日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー