【感想】「黄昏(たそがれ)の絵画たち-近代絵画に描かれた夕日・夕景-」(神戸市立小磯記念美術館、2019/11/16~2020/1/26)レビュー

神戸市立小磯記念美術館で開催されている、特別展「黄昏(たそがれ)の絵画たち-近代絵画に描かれた夕日・夕景-」(会期:2019年11月16日~2020年1月26日)に行ってきました。この展覧会は巡回展で、山梨県立美術館(2019年6月22日~8月25日)、島根県立美術館(2019年9月4日~11月4日)を経て、小磯記念美術館にやってきました。

神戸市立小磯記念美術館「黄昏の絵画たち-近代絵画に描かれた夕日・夕景-」

 

展覧会タイトルどおり、黄昏(たそがれ)をテーマにした絵画を集めた展覧会で、コローやモネ、クールベ、ドニ、ルオー、フォンタネージ等の19~20世紀の西洋絵画や、高橋由一、黒田清輝、菱田春草、萬鉄五郎等の日本近代洋画を中心に紹介しています。

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

第1部 西洋篇
プロローグ 19世紀中葉以前の夕景表現-近代的夕景の“発見”
1章 ドラマチックな逆光から包み込む光へ
2章 「一日の終り」の象徴としての夕日
3章 夕日とモダニズム

第2部 日本篇
4章 「逆光」の移入
5章 黄昏の版画たち①江戸~明治
6章 「夕暮」「晩帰」主題の流行
7章 「自然主義的」夕景
8章 「表現主義的」夕景
9章 黄昏の版画たち②大正~昭和
エピローグ 20世紀中葉以降-原風景としての夕景

 

第1部は西洋篇で、17世紀のクロード・ロランの《木を伐り出す人々(川のある風景)》から始まり、20世紀初頭に至るまでの夕景表現の流れを俯瞰します。ここでは、夕日の明るさとは対照的に、影となる画面手前を極端に暗く描く逆光表現を特徴とする時代から、画面全体を光で包み込む印象派の時代へと移り変わっていく様子がわかります。

 

個人的には、1920年代に制作されたライオネス・ファイニンガーの作品《海辺の夕暮》《夕暮れの海Ⅰ》に心惹かれるものを感じました。色と形の自立を志向するモダニズム絵画の流れにある作品で、ファセットと呼ばれる宝石などの切子面を連想させるような画風が心地よく、どこか懐かしさをも感じさせてくれます。

 

第Ⅱ部では、日本で描かれた夕景表現の流れを確認することができます。フォンタネージの《沼の落日》に見られる逆光表現が、日本に移入されていく様子が伺えました。一方で、パリで学んだ黒田清輝が帰国し、印象派的な新しい夕景表現も日本に入ってきます。

 

やがて、夕景を通して叙情的な風景を表現することから、人間の生活と深く結びついた夕景へとそのテーマも移っていきます。さらに、その表現方法も自然のありのままの姿を素直に写し取ろうとする自然主義的な時代から、作家の個性を最大限に発露させた表現主義的な夕景へと進化していく様子も確認できました。

 

展覧会では、版画に見られる、江戸時代から昭和に至る夕景表現も鑑賞することができます。人の心を動かす夕景が、時代や環境によってさまざまに移り変わっていく様子が興味深いですね。ただ、こうした変遷の様子は一通り鑑賞しただけですぐに理解できるわけではありません。解説パネルを読むだけで十分理解できなかった部分は、図録(2,200円)の助けも借りる必要があるでしょう。さらに、何度か鑑賞する機会があれば、より一層理解が深まるだろうと思います。

2019年11月25日|ブログのカテゴリー:2019年投稿, 展覧会レビュー