【感想】「カラヴァッジョ展」(あべのハルカス美術館、2019/12/26~2020/2/16)レビュー

あべのハルカス美術館で開催されている「カラヴァッジョ展」(会期:2019年12月26日~2020年2月16日)に行ってきました。今回は、17世紀バロック絵画の創始者で、イタリアが誇る天才画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)に関する展覧会になります。今回の展覧会では、日本初公開となる作品も数点展示されていました。

あべのハルカス美術館「カラヴァッジョ展」

 

ただ残念なことに、当初展示予定だった《ホロフェルネスの首を斬るユディト》と《瞑想するアッシジの聖フランチェスコ》がイタリア側の手続き上の問題などにより展示できなくなってしまいました。《ホロフェルネスの首を斬るユディト》に関しては、チラシの表紙で大々的に宣伝してきたこともあり、希望者には前売り券の払い戻し対応までしていました。

 

尚、この展覧会は巡回展で、これまで北海道立近代美術館(2019年8月10日~10月14日)、名古屋市美術館(2019年10月26日~12月15日)と巡回し、今回のあべのハルカス美術館が最終会場となります。

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

Ⅰ 1600年前後のローマにおけるカラヴァッジョと同時代の画家たち
Ⅱ カラヴァッジョと17世紀のナポリ画壇
Ⅲ カラヴァッジョ様式の拡がり

 

第Ⅰ章では、成功を夢見てローマにやってきた、1600年前後のカラヴァッジョ及び同時代の画家たちの作品が展示されています。最初に、極めて精緻で写実的に描かれた静物画《花瓶の花、果物および野菜》が目に飛び込んできますが、この作品の作者は“ハートフォードの画家”となっています。これは、当時、ローマ絵画界の重鎮カヴァリエーレ・ダルピーノの工房にいたカラヴァッジョではないかと推測されています。

 

様々な果物や野菜、花瓶、トカゲなどが画面一杯に描かれ、全体の構図を考えた作品というより、静物画の練習としてい描かれたようにも見えます。本物と見紛うほどの描写力が発揮された見事な作品です。同様に、カラヴァッジョの作品であることが分かっている《リュート弾き》の写実力も相当なものです。リュートや楽譜は勿論、ガラス製の花瓶に映った窓や、生けられた花の表面に浮かぶ水滴までもが正確に描かれています。

 

第Ⅱ章では、もともと喧嘩っ早かったカラヴァッジョが遂に殺人を犯し、実質上の死刑宣告を受けたことからローマを脱出することになり、各地を転々としながら制作した作品が展示されています。

 

この章の最注目作品は、カラヴァッジョの《法悦のマグダラのマリア》です。この作品は、娼婦マグダラのマリアが我が身を懺悔し、法悦(キリストの教えに触れ、味わう恍惚感)の表情を浮かべている姿を描いています。あたかも、カラヴァッジョが自分の境遇と重ね合わせて描いているようでもあります。髑髏の上に肘を置き、恍惚の表情で涙を流している姿は、神々しいと言うより、何とも怪しい雰囲気が漂っています。

 

さらにこの章では、大胆な明暗表現や写実性が特徴のカラヴァッジョ様式を受け継いだ、カラヴァッジェスキと呼ばれる画家たちの作品も展示されていました。特に、その中心的な存在だったジュゼペ・デ・リベーラの作品は4点展示されており、こちらも注目作品です。

 

第Ⅲ章では、カラヴァッジョ最晩年に制作された《洗礼者ヨハネ》が展示されています。カラヴァッジョは、恩赦を求めてローマに赴こうとしますが、その道中、熱病に冒されて亡くなります。彼がその道中で持参していた3作品の一つがこの作品だと言われています。これらの作品は、恩赦の取り成しを願ってボルゲーゼ枢機卿に届けるために持っていたようです。

 

他に、カラヴァッジョが脱出したローマにやってきてカラヴァッジョ様式を受け継ぎ、後世に大きな影響を及ぼしたバルトロメオ・マンフレーディの作品や、ニコラ・レニエのようにローマにやってきたイタリア出身以外の画家たちの作品も展示されています。そして、カラヴァッジョの絵画様式はローマから、ヨーロッパ各地へと伝搬していくことになります。

 

今回の展覧会では、カラヴァッジョという風変わりな天才画家の人生と、後世への絶大な影響をうかがい知ることができる内容になっていました。自画像を作品の中に取り入れたり、自分の境遇を作品を通して訴えたりと、死刑宣告まで受ける波乱万丈の人生を味わったカラヴァッジョの思いが伝わってくる展覧会になっていました。

2020年01月22日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー