【感想】「ゴッホ展」(兵庫県立美術館、2020/1/25~3/29)レビュー

兵庫県立美術館で開催されている「ゴッホ展」(会期:2020年1月25日~3月29日)に行ってきました。今回は、記念講演会が開催されることもあって、会期の2日目に当たる日曜日という入館者の多そうな日に鑑賞することになりました。ただ、朝の10時台はチケット売り場に列ができていましたが、昼頃にはそうした列も解消されていました。私が展示室に入ったのは、記念講演会終了後の15時45分頃という、一般的には美術館での鑑賞が最も快適にできる時間帯を選びましたが、それでもかなりの人が入っていました。

 

今回の「ゴッホ展」は、画業の初期に影響を受けたハーグ派や、その後に影響を受けた印象派の作品も合わせて展示されており、ゴッホの画業を内と外から展望できる内容になっていました。音声ガイドを利用すれば、女優の杉咲花さんによる解説以外に、声優の小野賢章さんがゴッホの弟テオ役を演じながら展覧会をナビゲートしてくれるので、ストーリー性を楽しみながら展示が味わえます。

 

展覧会の構成は以下のとおりです。

 

Ⅰ.ハーグ派に導かれて:独学からの一歩
Ⅰ.ハーグ派に導かれて:ハーグ派の画家たち
Ⅰ.ハーグ派に導かれて:農民画家としての夢
Ⅱ.印象派に学ぶ:パリでの出会い
Ⅱ.印象派に学ぶ:印象派の画家たち
Ⅱ.印象派に学ぶ:アルルでの開花
Ⅱ.印象派に学ぶ:さらなる探求

 

第Ⅰ章の「ハーグ派に導かれて」では、1880年に画家になることを決意したゴッホが、独学で学び始めた頃の素描や水彩画などが展示されています。数多くのデッサンを通して腕を磨いている様子が伺えました。

 

続いて、ゴッホが大きな影響を受けたハーグ派の画家たちの作品が展示されています。ヤン・ヘンドリック・ウェイセンブルフやヨゼフ・イスラエルス、アントン・マウフェ、マリス三兄弟、ジョルジュ・ヘンドリック・ブレイトナー、アントン・ファン・ラッパルトたちの作品を一望することで、ハーグ派の特徴と言える、悪天候効果や灰色・茶色を多用した画風が実感できました。

 

そして、農民画家として制作に取り組んだゴッホの作品群へと展示が進みます。初期の代表作で、ゴッホの自信作でもある《ジャガイモを食べる人々》の魅力を友人たちに伝えるために制作したリトグラフも展示されていました。しかし、急いで制作したこの作品が原因で、友人のラッパルトと衝突することになってしまいます。

 

第Ⅱ章「印象派に学ぶ」では、1886年にパリに突然やってきたゴッホが、次に大きな影響を受けることになる印象派の画家たちとの出会いが取り上げられています。ゴッホがその色彩表現を絶賛したアドルフ・モンティセリを始め、ピサロ、セザンヌ、シスレー、モネ、ルノワール、ゴーギャン、シニャックといった、印象派の大御所たちの作品が展示されていました。

 

モンティセリの鮮やかな色使いや厚塗りといった独特の画風は、それまでハーグ派の薄暗い色彩に慣れていたゴッホにとって衝撃だったことは想像に難くありません。個人的には、今回展示されていたルノワールの《ソレントの庭》と《髪を整える浴女》の配色があまりにも強烈で、改めてルノワールの偉大さを思い知らされました。

 

さらに、ゴッホは1888年に移り住んだアルルで、より明るい色彩に挑戦することになります。《麦畑とポピー》や《麦畑》などは、その最たるもので、色彩の研究をしながら南国の太陽を存分に表現しています。

 

サン=レミ郊外の精神療養院に入院してからもゴッホは制作を続けています。この時期の作品は、輪郭線が黒でくっきりと縁取られているものが多いように感じました。そして、今回の展覧会の注目作品でもある《糸杉》が登場します。

 

ゴッホといえば、ひまわりと糸杉が有名ですが、この《糸杉》という作品もゴッホらしさが満載でした。濃い緑でうねるような筆触で描かれた厚塗りの糸杉と、青と白でうねるように描かれた空が見事な対比をなしています。そして、空には大きな三日月がかかっていました。

 

わずか10年程度の画業の中で、大きな実績を後世に残したゴッホの人生を考えると、凄いとしか言いようがありません。マグマが溢れるような画風と同様に、激しい人生を生きたゴッホですが、それがゴッホという画家の魂を象徴しているのでしょう。

2020年01月29日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー