【感想】「2019年度 コレクション展Ⅲ」(兵庫県立美術館、2019/11/23~2020/3/1)レビュー

兵庫県立美術館で開催されている「2019年度 コレクション展Ⅲ」(会期:2019年11月23日~2020年3月1日)を鑑賞しました。今回のコレクション展は、「もうひとつの日常」、「もうひとりの小磯良平 ― 肖像画と静物画を中心に」、「もうひとりの金山平三 ― 人物画を中心に」、「小企画 塩売りのトランク マルセル・デュシャンの『小さな美術館』」から構成されています。

 

「ゴッホ展」の裏で開催されていることもあって、いつも以上にひっそりしているようにも感じましたが、これがコレクション展の日常かもしれません。しかし、本当の美術館好きが楽しみにしているのが、こうしたコレクション展でもあります。そして、コレクション展こそが美術館の学芸員の力が試されるところでもあります。

 

「もうひとつの日常」は、さらに以下の内容で構成されています。

第一室 朱夏:永遠に向かって
第二室 白秋:この慈しむべき日常
第三室 玄冬:「非日常」という名の日常
第四室 青春:新たなる日常―永遠に向かって
第五室 近現代の彫刻

 

ここでは、日常を切り口にして、さまざまな角度から展示が試みられていました。循環や永遠をテーマにした作品を集めた第一室、何気ない日常を扱った作品を集めた第二室、戦争や災害を通して非日常へと変貌した様子を扱った第三室、そして、再び日常に焦点を当てた作品を集めた第四室となります。最後の第五室は、いつもの彫刻作品が展示されていました。

 

少し哲学的な雰囲気が漂うコンセプトで、現代美術に疎い鑑賞者にとっては、わかりにくい構成だったかもしれません。この時期の来館者の大部分がゴッホに興味を持っていることを考えると、それに関連付けた企画のほうがわかりやすかったかもしれませんね。例えば、他の画家から影響を受けた作品集(ハーグ派や印象派から影響を受けたゴッホ)、短命な作家の作品集(37歳で亡くなったゴッホ)、人間の生活を扱った作品集(農民画家を目指していたゴッホ)など。もしかすると、最後のテーマが今回の「もうひとつの日常」につながっていたのでしょうか?

 

さらに、小企画として「塩売りのトランク マルセル・デュシャンの『小さな美術館』」がありましたが、これもなかなか難解な内容でした。展示の意図は明快なのですが、いかんせん作品そのものが抽象的でわかりにくいのです。ただ、展示室で配布されているパンフレットは写真付きで実によくできています。そして、普段見ることができない、マルセル・デュシャンの「小さな美術館」の中身がすべて見れるという貴重な機会ではありました。

 

金山平三記念室では、金山平三の貴重な人物画が展示されていました。風景画家のイメージが強かったので、意外な気もしましたが、今回の企画を通して、金山平三の新たな魅力を発見した気がしました。それは、風景画のなかに小さく描き込まれた人物像が絶妙に上手い効果を生み出していたのです。どうして、これまでそこに気が付かなかったのかと少し不思議な気もしました。

 

小磯良平記念室では、肖像画が多数展示されていました。モデルとなった人物の写真等も並べて展示されていましたが、改めて小磯良平の画力の上手さを感じました。写真以上に本人を表現しているという気がしました。

 

以上、いつもながらの充実した内容のコレクション展でした。美術館のメイン展示である「ゴッホ展」だけでなく、コレクション展も鑑賞してもらえるような動線ができればいいですね。ただ、兵庫県立美術館では、コレクション展を鑑賞するためには別途観覧料が必要なので、若干ハードルが上がるかもしれません。

2020年02月25日|ブログのカテゴリー:2020年投稿, 展覧会レビュー